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夏休みになった。
出版予定の本があったので
資料集めに大学生を数人、
アルバイトで借り出す。
「エアコンの効いた部屋で
資料作りは助かるバイトです」
「だよね、後期の交通費が
これで賄える!!」
今の学生は、スマホ代に、交通費、
自分で稼ぐことが殆どらしい。
中には授業料の半額すら
バイトで補う者も…。
恵まれていた自身の環境に
感謝の分、学生達には
バイト料を弾む、ついでに
贅沢なオヤツなども。
贅沢オヤツの残りを克史にもって
帰宅すると父親が夏の名物、
イカ刺しで一杯。
隣には克史が
鯵フライのように身を広げた
海老フライを食べていて
「今日、テレビで見たの。
名古屋では海老を広げて
揚げたフライの店が
あるのですって」
母親が、私の分も揚げ始めていた。
愉しい夕餉の片隅に
綺麗に整った台所が見える。
たった一度であったけれど
いつか見た夏美の家の台所には
幾つも転がったカップ麺と
蝿の舞うゴミ袋だけが
乾いた流し台の前にあった。
あれは…夏美の通夜だった。
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