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蕗の薹、陰に咲く。
「売るくらいあるね」
玉子焼きの行列に驚いた。
「母さん、どうしてこんなに
たくさん焼いたの?」
「克史の弁当」
「オカズはこれだけ?」
…にしても多すぎる。
「唐揚げもある」
「 ?! 」
唐揚げも五人前程。
「学校へいってきます」
春から中学生になった
甥の克史が台所へ
弁当を取りに。
「友達とオカズの交換でもするの?」
「まあね」
と、だけ答えて克史は出かけていった。
「アレ…ご飯だけの友達の分」
「ご飯だけの弁当?」
「“ふりかけ”しかない子が
いるらしいのよ、それで」
「 ・ ・ ・ 」
(この令和の世に?)
「“食べる”以外にかかるお金、
今は多いもんねぇ、そこへ
契約社員みたいな扱いの雇用が
増えて…日本…
どうなるのかしら」
愚痴りつつ洗い物をする母の背を
眺めながら
コーヒーを淹れて
一口目が胃に落ちたあたりで
(…夏美…)
懐かしい友の顔が
……浮かんだ。
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