君と手を重ねて鐘を鳴らす

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 汗をかいたので、カバンからスポーツドリンクを取り出して飲んだ。パイナップルフレーバーがやたらタイムリーだと思った。カナタは、はちみつレモンのフレーバーのスポーツドリンクを飲んでいた。 「それ、美味しそうですね」 「一口飲む?」 「いいんですか?いただきます。よかったら、はちみつレモン味もどうぞ」  カナタからもらったはちみつレモンフレーバーは想像の3倍甘ったるかったけれども、嫌いな味ではなかった。パイナップルフレーバーを飲むカナタの喉が動くのを凝視した。 「あんまりじっと見られると、ちょっと恥ずかしいです」  視線に気づいたカナタが顔を赤らめた。 「ごめん、カナタって妖精みたいだなって思って」 「妖精、ですか?」  不思議そうに首をかしげて復唱された。 「昨日はインセクト・テイマーみたいだなって思ったけど、今日は妖精みたいだなって。うーん、トータルで魔法使いが一番しっくりくるのかな」 「魔法使い、ですか。なるほど」  鐘のモニュメントの隣で青い海を見下ろしながら、とりとめもない会話をする。海には小さな島がぷかりと浮かんでいる。カナタがちらりと右腕の時計に視線を落とした。 「今から見せてあげましょうか、魔法」  カナタが、モニュメントを指さした。 「この鐘を一緒に鳴らしてくれますか?」 「うん」 「いきますよ、せーのっ」  二人で手を重ねて鐘を鳴らす。鐘の音が遠く響き渡る。すると、海岸から道のようなものが出現した。波が引くたびに、少しずつ道は長くはっきりと浮かび上がっていく。太陽が照らす道の先には小さな島があった。そして、ついに道はつながる。その神秘的な光景に目を奪われた。 「すごい……カナタは本当に魔法使いだったんだ」 「そういうことにしておきますね」  カナタが耳元でささやいた。耳が熱を持った。  階段を下りて、小島への道を渡る。砂の一粒一粒が、太陽の光を浴びて煌めいていた。 「映像じゃなくて本当に道ができてる。どうやったの、この魔法」  自分の手の甲に触れる。同じ時期に生まれたカナタの体内に埋め込まれたチップとそう性能に大きな差があるとは思えない。ナノチップにはそんな機能も搭載されているのだろうか。 「トリックを聞くのは野暮ですよ」 「だって、気になるじゃん」 「あんまり無粋だと、天使様に怒られちゃいますよ」  唇にカナタの人差し指が触れた。 「天使様?」 「この道は、天使の散歩道なんです」  ミステリアスなほほえみを浮かべてカナタが答えた。 「この道を渡ったら、天使様のご加護を受けられるって信じています」 「へえ、ここも何かの聖地なんだ」 「そうですよ。先ほど鳴らした鐘も、鳴らすと幸せになれると言われています」  宗教のことはよく分からないし、神の実在を信じているわけではないが、実際に今とても楽しいのであながち伝説も嘘ではないのだと思う。もう小さな子供ではないので、道の出現が魔法ではなく、科学的な何かに基づいた現象だということも頭では分かっている。それでも、心の中ではあれはカナタの魔法だということにしておきたい。 「聖地か。えーっと、狩りの神様のアルテミス様だっけ? の加護がある島なの? ここって」  うろ覚えながら遺跡でカナタが言っていたことを確認してみる。 「いいえ。違いますよ。楓にとっては前時代の概念かもしれませんが」  一呼吸間をおいてカナタが告げる。 「ここは、恋人の聖地です」  鐘の音が脳の奥でリフレインした。
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