手取り足取り、初めての狩り

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手取り足取り、初めての狩り

 夜が明けて、カナタの部屋の前で待ち合わせて一緒に狩猟区域に来た。人生で初めてバベルの外に出るだけでも大冒険で、1歩踏み出す瞬間はFPSで世界ランク1位の強敵と当たった時よりドキドキした。  ナノチップのレーダーと、空中に映し出した望遠モニターを頼りに野鳥に照準を合わせる。そして、引き金を引く。レーザーは見事野鳥に的中し、撃ち落とすことに成功した。 「ナイスショットです!」  数歩後ろでカナタが拍手をした。 「結局実弾は使っちゃダメなんだね。あと、カナタは撃たないの?」 「初心者が実弾なんて誤射でもしたら危ないじゃないですか。それに、慣れていないのに二人同時に銃を使うのも危険ですよ」  てっきりFPSと同じようにアサルトライフルを使わせてもらえるのかと思ったが、光線銃を使って狩りをしている。大昔のロボットのレーザー誤射事故を受けて、今時のアウターの多くは超高性能反射素材を使っている。そのため、レーザー光線からある程度は身を守ることが可能だ。最も、ここ100年ロボットの誤作動による攻撃事故は起こっていないので、単に反射素材が防寒性能も高いため現在も使われているというだけだが。  それに、ナノチップのデフォルト設定ではオートシールド機能がオンになっているので、レーザーの発射を感知すれば自動で防御壁を張ってくれる。これらのセーフティネットは実弾には対応していないので、実弾を誤射したら危ないというのは至極正論だった。 「いつかは実弾使いたいなあ」 「防弾チョッキでも取り寄せます? でも、ああいう装備に使われている合金って調べたところ結構重いんですよね」 「もしかして誤射しないくらい上手くなることの方が現実的だったりする?」 「そうですね。楓はすごく上手ですし、すぐ実弾銃も使えるようになると思いますよ」  筋がいいと褒められ、有頂天になりそうになった。 「それにしても、レーザー対策のアウターってだいぶ便利ですよね」 「最近の治安維持ロボットのレーザーはかなり強いから、こんなんじゃ絶対防げないけど。ほら、一昔前って治安悪かったじゃん。あの時に、かなりロボットのレーザーの威力上げたんだってさ。下手したら防御壁とかも貫通するんじゃないかな?」 「ええっ! じゃあ銃に反応してロボットに誤射されたら危ないじゃないですか!」 「絶対ないから安心して。こっちが何かやらかさない限り大丈夫。治安悪い時に作られた旧型は警告なしに狙撃してくるけど、最新型のロボットは音声認識が優秀だから敵意がないことを表明すれば撃ってこないし。嘘発見機能もついてたんじゃないかな」 「詳しいですね。さすがです」  親から教えてもらった知識の受け売りだが、カナタは感心していた。 「一昔前のロボットはレーザーの威力不足を補うために、実弾1発だけ実装してるのが多い。テロリストはレーザー対策してるから。で、そしたらテロリストも実弾使うようになったから最新型は実弾対策もばっちり。あと、各地のロボット間でテロリストの情報共有システム強化されたのもその時期。ほんと一瞬で全世界と共有するから。ロボットの製造ロットとかバージョンまたいでブラックリスト共有できるようになったのは強い」 「楓は博学ですね。尊敬します」 「カナタも相当、昔のこととか詳しそうだけど」 「遺跡巡りも好きなので……多少は……」  どうやらカナタは褒められると照れやすい性格をしているらしい。声色や表情に出るタイプなので一目でわかる。 「へー。そっちも今度連れて行ってよ」 「本当ですか? うれしいです。楓に興味を持ってもらえて」  カナタが教えてくれた新しい世界は想像以上に楽しい。きっとこれからも楽しい日々が続くのだろうと思った。  あの後、日没までに何発も野生動物を仕留めて一緒に調理して食べた。生まれて初めて食べたジビエは忘れられない味になった。今までで一番「生」を強く実感した。  バベルを外から見上げたのも、秋の風の冷たさも、本物の光線銃の引き金の感触も、友達と遊ぶ楽しさも、何もかもが初めてだった。
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