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持つべきものは友
決戦初日。
いよいよ今日から3日間、俺の戦いが始まる。
作戦名「オペレーション・メアド」
今回の作戦の成功は、春香のメールアドレスを
教えてもらうこと。
作戦内容は「成り行きに任せる」
……
結局、朋華と恭平と更に優希という同じクラスの
男友達を率いて、用いられた作戦は
なにも思いつかなかった。
優希は保育園からの付き合いで親同士も仲良く、
元々家が近いこともあって、
恭平と同じよう仲が良かった。
ちなみに、恭平、優希、浩二、俺は
皆同じサッカー部だ。
優希も好きな女子がいて、その子のメールアドレスを
聞き出そうとしていたがなかなか上手くいがず、
言ってしまえば俺と同じだった。
「どうしよー……」
「ってか、修学旅行の内容、シチュエーションが掴みにくくてどうなるかなんてわかんなくね?」
「自由行動の時に話すっつっても他の奴らもいるしなー」
「もしそこで断られたら、最悪の修学旅行になるもんな……」
全くその通りだ。断られたら気まずさMAXで
最高の思い出作りが最悪の思い出作りになる。
そうこうしている間に時は経ち、
今日へと至ってしまった。
「まっ、どうにかなるだろ!」
そんな感じで迎えた修学旅行当日。
生まれて2度目の飛行機に乗り、
東京へと向かった。
飛行機の席はあまり仲良くない男の子と
一緒になってしまった為、
予め持ってきておいたCDプレーヤーで耳を閉じ、
気付けばもう東京に着いていた。
そこから東京タワーなど、観光名所をバスに
乗りながら周回し、夕方になり、宿に着いた。
晩御飯を食べ、男女別6人1組の部屋へと別れていく。
優希と同じ部屋だった。
「おい、女子部屋行こうぜ!」
優希が言う。
「いや無理だろ、先生に見つかったら怒られるどころじゃないし、まず女子がびっくりするだろ。」
俺は至極真っ当なことを言ったつもりだった。
男子は1階、女子は2階で部屋分けされて、
2階に上がった1番最初の部屋が先生の部屋。
宿は昔ながらの旅館だったので、階段を上がると
キーキー音がするから確実にバレる。
「健一、甘いな、ルマンド並に甘いぜ!」
「は?」
「もう行く部屋は決まってるし、話もしてある」
ニヤケながら優希がいう。
優希は俗に言うイケメンで女子からの
支持率も高かった。ってかモテた。
恐らく、晩御飯の時に女子に遊びに行くから、大丈夫か話をしていたのだろう。
「だから健一も行くぞ!」
「うえーーー……んじゃまっ、行ってみますか!」
結局俺も思春期男子。行くことにした。
俺と優希を含む、5人の精鋭が集められた。
恭平は真面目だから絶対来ないと思ったら、
やっぱりそうだった。
静音な正面玄関のそばにある
キーキー音のなる階段は、極力音がでないよう
ゴキブリのように身を伏せて、カサカサと登った。
男子5人全員がその体勢で登っていく様は、
あまりに滑稽すぎて、全員笑い声を殺しながら
登っていた。
やっとの思いで優希の案内されるまま
2階にある一室にたどり着き、ノックするや否や
すぐに開き、5人とも中に入った。
春香の姿も朋華の姿もない。
ホッとしたようなちょっと期待外れな様な。
そんなことを思っていたら、
態度に出ていたのだろう。
「春香居なくて残念だったね!健一!」
そう吉山に言われた。
吉山改め吉山雪子は春香と仲がいい。
同じ吹奏楽だし小学時代から親しかったのだろう。
よく春香と一緒にいる女の子の内の1人だ。
ちなみに俺は苗字で名前を呼ぶ。
内心図星突かれながら、アタフタしてると
みんなの話題も恋愛話になり、
誰が好きとは言わないものの、
各々こういうの素敵!とか話していた。
優希のお目当ての子はその部屋にいて、
目をギラギラ輝かせながら
その子の恋愛の価値観を話す内容を聞いていた。
そんな中、事件が起きる。
他の部屋に遊び行っていた女子が慌てて帰ってくる。
就寝時間を過ぎていたため、先生が電気を消しに
各部屋に回ってきたのだ。
「電気消すよー、早く寝ろ〜」
と言う先生の声が段々近くなる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
脳内パニック。
ヒソヒソ声でみんなで話した結果、
電気消して布団に男子も潜り込む。
そして寝ているふりをすることになった。
それはそれでヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
急に電気を消され、慌てて真っ暗の中、
近くの布団に潜り込む。
もう、足音はそこまで来ている。
真っ暗になってから動いたため、近くに誰がいるかも
把握せずに潜り込んだ布団に誰がいるのかも分からない。
でも、こんな近い距離で誰かの息が聞こえる、
しかも女子の布団で……
先生に見つかったら大変なことになるのと、
女子と一緒に寝ているというスリルが、
心臓の音を加速させ、一緒の布団にいる
相手に聞こえているんじゃないかとさえ
思えるほど大きくなる。
「ガタンッ!」
ドアの開く音。
予め電気は消していた為、先生は何も気にすることなくまたガタンと言い、ドアは閉まった。
……セーフ。
先生が足音で帰って行ったのを確認して、
誰かが電気を付けた。
ぷはーっと息が漏れる。
布団をガバッと抜け出すと一緒に寝ていたのは、
優希だった。
「お前かよ!!!!」
いやそれでいい。一瞬声に出そうになったが
思いとどまり、言うのをやめた。
それを機にみんな自分の部屋に帰ることになった。
またゴキブリになって自分たちの部屋へ戻る。
自分たちの部屋の先生巡回は、
居残り隊が上手くやっていた。
持つべきものはやはり友だと思いながら、
吉山に春香のことを聞いた時を思い出してた。
「春香って好きな人いるのかな?」
「さぁね?自分で聞いたら?」
「聞けるわけないだろ!!」
「まぁ、私の口からはなんとも言えないね。」
これは好きな人がいると捉えて良いのだろうか、
いるとしたら……
そんな不安を抱えながら夢の中へと入っていった。
迎えた2日目。
自由行動の時間がやってきた。
昨晩の事は先生に知られることは無かったし
恐らく他の連中も知らないであろう雰囲気だった。
自由行動はジャンプショップや、
原宿の竹下通りに行ったが、
春香と話すことはほとんどできなかった。
朋華に肘で突かれながらも、
昨日吉山から聞いたことの
不安と緊張と恥ずかしさで、
ちょっとした小話さえもできない。
あっという間に自由行動の時間は過ぎ、
何も進展がないまま、全員の最終集合場所である
ディズニーランドへと着いてしまった。
ディズニーランドは班という帳を払い、
誰でも仲のいい人と行動することとなっている。
俺は、恭平と優希と行動を共にした。
「バカだなお前らは」
と笑いながら昨晩の女子部屋での出来事を、
俺と優希は恭平に罵られる。
なんとかせねば……
そんなことを思いながらディズニーランドの
パレードを見て、宿に着き、
今回は何事もなく翌朝を迎える。
3日目は最終日。
起きて朝食を済まし、支度をして
飛行機で地元まで帰り解散。
この流れにメールアドレス交換をどう差し込む!?
と考えているうちに、帰りの飛行機に乗った。
飛行機で座ることになった席順が、窓側から
春香、朋華、俺となっていた。
神様……嘘だろ……
ここだ!ここしかない!そう思った。
「離陸するのでシートベルト着用をお願いします」
アナウンスが流れる。
飛行機の席に着いてからまだ一言も
言葉を発っせていない。
姿勢だけはビシッとしていた。
緊張していたのだろう。
多分、今誰かに歩けと言われたら
手と足両方同じ方に動くだろう。
そんな俺をよそ目に、春香と朋華は談笑している。
フライトして1時間くらい経った辺りだった。
やはり緊張し過ぎて俺は何も話せない。
仲良く話をしていた春香と朋華だったが、
急に席の真ん中に座っている朋華が言い出した。
「春香ちゃん、ちょっと質問あるから目を閉じてもらえる?」
「え?うん?いいよ。」
春香が目を閉じた瞬間、急に朋華が首を180度回し
俺にジャスチャーと口パクでなにか投げかける。
「今!メアド聞け!!」
今!?今っすか!?
突然の出来事にビックリマークとはてなマークを
頭に描きながら、今持ち合わせている
最大級の勇気を振り絞る。
少しの沈黙が続き、大きく静かに息を吸い込み
目をつぶった彼女に言った。
「春香さんのメールアドレスを俺に教えてください!!」
声が震えた。めちゃくちゃかっこ悪い。
「いいよ。」
え?今いいよって、え!?ええー!!
春香は目を閉じたまま答えてくれていた。
朋華が俺に向け親指を立てている。
グッジョブ、俺。
朋華の力を借りて、いや、むしろ朋華のおかげで
メールアドレスを教えて貰えることになった。
やはり持つべきものは友なのだろう。
ありがとう、朋華。
飛行機に乗った時と降りた時では
まるで別人になった俺の顔をよそに
優希も顔がめとても晴晴としていた。
どうやら優希もメアドを
聞くことに成功したらしい。
恭平もこのバカ2人の表情を悟ったらしい。
3人でハイタッチして学校に着いた。
後日、修学旅行を終えて最初の登校日。
下校時間に下駄箱を覗くと手紙が入っていた。
見慣れないメールアドレスと、最後に「春香」と
見慣れない字で書いてあった。
周りに誰も居ないことを確認して
俺は大きくガッツポーズした。
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