夏祭りとリミッター

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夏祭りとリミッター

とうとう中学最後の夏休みが来てしまった。 結局メールはずっと送れないまま、 春香と会話を交わすこともなく 夏休みへと突入してしまった。 夏休み中はルーティーンが変わる。 サッカー部は3年生最後の大会が秋の為、 休み中は部活もある。 しかも、しこたまの宿題も勿論ある。 基本俺は成り行き任せなので、 勉強は後回し。とりあえずかえればゲームして たまに恭平たちと遊んでという ルーティーンになっていた。 サッカーの練習は亀山中学校のグラウンドだ。 学校の窓側から吹奏楽部の、 途切れ途切れなメロディーが聞こえてくる。 「あそこに春香もいるんだなぁ…」 そう思うと炎天下の中でも、 春香にもし見られているのではと馬鹿な空想をして、 少しでもカッコイイシュートを 決めたりするよう意識した。 中学男子特有あるあるの、なんていうか馬鹿だ。 ちなみに浩二もサッカー部で一緒に練習しているが、 別に仲が悪くなるわけでもなかったし、 美香の話題以外は普通に話もしていた。 吹奏楽部は夏のコンクールが最後の大会だった。 みんな追い込みをかけているのだろう。 サッカー部の練習は午前中だけだったが、 吹奏楽部は丸1日練習していた。 「健一〜、夏祭りどうするー?」 部活帰りに恭平が呟く。 「あぁー、行くー?俺どっちでも。」 「そんじゃ、適当に人集めるからお前も来いよ!」 「了解〜!」 電車で20分ほど走った所にある、 少しデカめの隣街で毎年行われる夏祭りがあった。 今年で開催50周年だそうだ。 そこで行われる花火大会は有名で こんな小さな街でも、数千人は観客で集まる。 せっかくのみんなでいる夏休みだからと、 恭平に言われ、うちわで顔を扇ぎながら 二言返事で行くことにした。 7月31日、夏祭り当日。 俺と恭平と優希と、他3名の計6人の男子グループで、 夏祭りへと行くことになった。 携帯電話は持っていったが、リミッターが切れて、 こちらからメールや電話をするということは 一切できなくなっていて、 母親からの電話が万が一掛かってきた場合にと、 一応持参していた。 まぁ、明日になれば8月1日になり、 リミッターも解除され、いつも通り使える訳だが。 電車は走り出し、見慣れない風景を次々と超えて、 隣町までやってきた。 夏祭りは2日間に渡り行われ、今日が最終日。 この祭りの期間だけは、駅から出て1kmくらいの 範囲は歩行者天国へと変わる。 時刻は昼の3時くらいだった。 下らない話にみんなで花を咲かせつつ、 軒並みに並んだ屋台に目を輝かせ、 たこ焼きや焼きそばを頬張る。 祭りの時に食べる食べ物は どうしてこうもおいしいのだろうか。 あっという間に時間は過ぎて6時を回り、 あと2時間で花火大会が行われる時間になっていた。 飲み物を買おうと、みんなでコンビニのレジで 並んでいる時の事だった。 purururu…purururu… 聞き慣れた電子音は俺のポケットから鳴っていた。 母親が状況確認の為にいちいち電話してきたのだろうと 携帯電話の画面を開いた。 開いた画面に映し出された名前に唖然とした。 「大代 春香」 …え? 一気に心臓の音が早くなる。 早く出ないと俺からはかけ直すことが出来ない。 満を持して通話ボタンに指を添えた。 「もっしもーーし!あっ!健一〜?」 さっきまでの心臓が嘘のように静かになる。 電話相手は横山だった。 「そうだけど、どうした?」 「春香じゃなくて残念でしたー!きゃははは」 「茶化すだけなら電話切るぞ。」 「いまなにしてんの〜?」 「恭平やらみんなと一緒に隣町の祭り来てるよ。」 「そうなんだ!私達も祭り来てるよー!」 「そうなんだ。そんでどしたの?」 「いやぁ〜、せっかくだしみんなで一緒に花火見ようよ!」 「ん?」 「春香もアンタと一緒に花火見たがってて、それで電話したんだよぉー!春香は健一のこと好きみたい!きゃははは」 「!?!?」 電話越しから周りにいる女子の声と一緒に 春香の声の声も聞こえた。 春香の「そんなわけない!!」という声だけは かろうじて聞こえた。 …でしょうね。 「まぁそんな訳だから7時に銅像の所集合ね!よろしくー!」 と流星のような電話は一方的に切られた。 恭平や優希や他のヤツらにも一応相談したら めちゃくちゃ乗る気だったので、横山たちと 合流することになった。 向かう道中、春香が俺の事を好き?んな馬鹿な!と 自問自答を何度も繰り返したが、 一緒にいるメンバーの話など、1つも入ってこない。 待ち合わせの時間に目印となる銅像の所まで着くと、 横山が手を振っているを見つけ、無事合流した。 春香を意識しすぎて直視出来なかったが、 見慣れない私服姿に、再度心を奪われ、 これだけで祭りに来たことに満足出来た。 もし、浴衣なんて着ていたら鼻血を 出していたかもしれない。 花火を見てる最中は、これと言って何も無かった。 春香とも距離はあったし、どちらかと言うと 恭平や優希と花火を見ながら、うぉーと 声を出しているだけで、あっという間に花火大会は フィナーレを向かえ、男女別々に帰路に着いた。 一緒に着ていたメンバーで、また電車に乗り 見慣れた駅へと着き、各々の自宅へと帰った。 帰ってすぐシャワーを浴び、寝床につく。 眠れなかった。 そうこうしているうちに日が回り、月が変わり、 8月1日の0時を迎えた。 さっきまで死んでいた携帯電話が、 急にヴォーヴォーとバイブ音を響き渡せる。 母親や、朋華や、恭平が1週間ほど前に 俺宛に送ったメールが今一斉に届き出す。 その中の1番上、つまり直近で春香から メールが3通届いていた。 送られた時間帯的に、夏祭りの最中に送っているようだった。 ひとつひとつ息を飲んで開けてみる。 「今なにしてる?」 「好きです。」 「今文章書いて送ったのは横山で、ごめんなさい!!違うから!!」 という三本構成。 一瞬ドキッとしたが、3通目を開き。 「ですよねぇ〜」と思った。 俺から一方的に好きになって、 一方的に距離を置いたのに、 相手が好意を抱くはずがない。 頭ではわかっていたが、モヤモヤして 余計寝付けなくなってしまった。 せめて自分が寝やすいようにと、 深夜を超えていたが返信を送ることにした。 「遅くにごめん! 今日はお疲れ様。 メールや電話のことは 気にしなくて大丈夫だから!笑」 とだけ書いて返信ボタンを押し、気づけば 朝になって母親に叩き起こされた。 急いで支度して部活に行こうとした時、 不意にまたバイブ音が鳴る。 誰だよこんな忙しい時にと思ったら 春香だった。 「おはよう。 本当にごめんね! 今日も部活頑張ろ!!」 久しぶりに春香とメールのやり取りをした。 これを機にまた春香とメールの やり取りをすることになることは まだこの時知らなかったけど、 夏休み中、1番元気よく家のドアを開けて 部活に向かったのは、今でも覚えている。
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