エピローグ 誓います。

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エピローグ 誓います。

「――新郎・九条蒼佑、あなたは菅原泉を妻とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」 「はい、誓います」 「――新婦・菅原泉、あなたは九条蒼佑を夫とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」 「はい、誓います」  三月――泉と蒼佑の結婚式が、とある教会で行われた。  招待客は、両家の家族と仲がいい友人たちだけだ。二人の希望で、小さな式となった。その代わり、四月に行われる披露宴には、九条家の親戚や会社関係の人たちを招待して盛大に行うことになっている。  泉のウェディングドレスはAラインのベアトップで、腰に縫いつけられた白いバラを起点に裾までドレープが入ったものだ。  その姿を見た時、佑が「ママ、おひめさまみたい!」と、抱きつこうとしたのを、梢がなんとか抑えていた。  グレーのタキシード姿の蒼佑は、そんな泉の姿を見て、「俺の花嫁が、世界一きれいでどうしよう……」と、真面目に唸っていて、周りから生温かい視線を受けていた。  バージンロードを歩く時、泉はスティーブにつき添われて入場した。父も兄もいないので、梢の提案でそうなったのだが、何故か入場時にはスティーブが泣いていた。  式の間、佑は梢家族に混じって参列し、アンジェリーナを抱っこした梢とキースに挟まれ、きちんとお利口さんに座っていた。  誓約の後には指輪の交換をしたのだが、この指輪も、蒼佑と泉が吟味に吟味を重ねて選んだものだ。  蒼佑が「泉とおそろいでするものだから、妥協はしたくない」と、謎のこだわりを発揮し、大量のカタログの中から決めた一品だ。  誓いのキスや署名など、すべてが滞りなく済んだ。子どもたちも泣いたりぐずったりしなかったので、泉や梢は後でめいっぱい褒めたのだった。  教会から出てきた二人を迎えたのは、列席者からのフラワーシャワー。 「お兄ちゃん、泉ちゃん、おめでとう!」  英美里が声をかけた。そばには岸本もいる。二人は去年の冬にすでに結婚しており、二人で暮らしている。英美里は少しでも夫に尽くしたいと、泉から家事を習い始めた。岸本の家で泉の仕事を手伝いながら、掃除や洗濯などをし始めたのだ。料理も、簡単なものなら作れるようになっている。  家事が意外と性に合っているらしく、楽しくやっているようだ。  岸本は相変わらず精力的に作品を発表し続けていて、出す本すべてが幾度も重版がかかるほど売れている。  そんな彼らの隣には秋山もいて、彼は彼でリカとの面会謝絶が解けるのを、指折り数えて待っているらしい。自分で撮った動画を毎日眺めては、リカへの想いを募らせているというのだから、蒼佑も岸本も呆れていた。  あまりに哀れなので、同情した泉は、時々リカの写真や動画を撮って彼に送っている。その泉の情けに感動したのか、今や秋山は彼女のことを『泉神様(いずがみさま)』と崇めるようになってしまった。  秋山の中で自分の印象がよくなったのは嬉しいものの、ここまで突き抜けられると、どうしたものか時々分からなくなる泉だ。 「泉、今度こそ幸せになるのよ。天国のお父さんとお母さんもそう願ってるからね」  梢は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、泉の手を握った。両親が亡くなってからずっと親代わりもしてくれて、悠希の件があってからは、常に心配し続けてくれて、佑を自分の子と同じくらい可愛がってくれている、大好きな姉。  ようやく、安心させられた。 「ありがとう、お姉ちゃん。今まで心配ばかりかけて、ごめんね」  泉は泣きそうになったけれど、ぐっと堪えた。 「イズミ、君のパパの代わりができて、嬉しかったよ。泣いてしまってごめんね」  スティーブが流暢な日本語で笑っている。彼は日本で数年働いていたことがあり、日本語も話せる。クマのように大きな体躯の義理の兄は、実は泣き上戸だったりするのだ。  そして―― 「パパ、ママ、けっこんしきおめでとう!」  佑が二人のもとに駆け寄ってきた。すかさず蒼佑が我が子を抱き上げる。 「佑、ありがとう」 「ちゃんとお利口さんにできて、偉かったな、佑」 「パパ、ママきれいだね」  佑が蒼佑の耳元で小さく言う。泉の耳にはしっかり届いているけれど。 「そうだな。佑のママは世界一きれいだな」 「パパだって、世界一かっこいいよね? 佑」 「うん!」 (こんなに幸せでいいのかな……)  泉はしみじみと自分に問いかける。  不妊だと診断されて悠希に捨てられた時には、人生の先にこんな幸せが待っているだなんて、露ほども思っていなかった。  それどころか、蒼佑と再会した時にさえ、そんなことチラリとも想像しなかったのに。  これは、佑が運んでくれたものだ。佑が泉のもとに来てくれたから、今の幸せがある。 (佑は私の天使ね)  泉はこの奇跡に感謝した。 「ねぇねぇ、ぼくも、チュウしたいな」 「ん? チュウ?」 「だってさっき、パパとママもしてたでしょ? ずるい! ぼくもしたい!」 「あぁ……さっきの誓いのキスのことか。……泉、するか?」 「そうね。じゃあ……佑、幸せになるって約束したら、パパとママのほっぺにチュウして」 「なる! やくそくする!」  佑は泉の頬にちゅ、とキスをした。それから蒼佑にも同じように。すると周囲から拍手が起こった。 「佑ちゃん! 可愛いわよ~」 「佑くん、幸せにな!」  蒼佑と泉はクスクスと笑い、お互い目配せをした。 「――パパは、佑を幸せにすることを誓います」 「――ママも、佑を幸せにすることを誓います」  二人は息子を挟んで誓いを立てると、同時に、佑のほっぺにキスをした。 (おわり) 最後までおつきあい、ありがとうございました!
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