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第32話 枕はしばらくYESのままで。
「佑、寝た?」
リビングに戻ってきた蒼佑に、泉が問う。
「うん、秒で寝た」
佑は「きょうはパパといっしょにねるの!」と言い、蒼佑の手を引っ張って子ども部屋へ向かった。佑の部屋にはりゅううさグッズなどが置かれていて、枕元にもりゅうやうさぎのぬいぐるみが座っている。
だからか、佑は自分の部屋で寝るのだと、張り切っていたのだ。
「新しいおうちに興奮してたものね」
泉が夕飯を準備している間も、蒼佑と遊び、夕食後はお風呂も一緒に入っていた。
この数ヶ月で、すっかりパパっ子になった佑。泉はそれが嬉しかった……ほんの少しだけ、淋しいような気もしたが。
「泉、ちょっと」
「なぁに?」
蒼佑はソファに座る泉の前に跪いた。こほん、とわざとらしいくらいの咳払いをして、改まった表情をこちらに向ける。
「改めて言わせてほしい。……今まで遠回りしてきたけど、俺は、泉も佑も、必ず幸せにします。だから、一生、俺と一緒にいてください」
緊張を帯びた声で言うと、彼は泉にジュエリーケースを差し出した。上下に開かれたそこには、ダイヤモンドの指輪が神々しいきらめきを放っていた。
泉は何度も目を瞬かせ、そして――
「今まで待っていてくれて、本当にありがとう。こちらこそ、一生、蒼佑のそばにいさせてください」
ほんのりと頬を染め、柔らかな声音で甘い言葉を返した。
泉が左手を差し出すと、蒼佑が薬指にリングをはめてくれた。サイズはぴったりだ。
「――私が、前に可愛いって言ってた指輪ね。嬉しい」
「リサーチしてたからな」
以前、結婚式について話をしていた時、情報誌の広告を見て、この指輪を可愛いと口にしたことがあった。今にして思えば、さりげなく蒼佑に誘導されて、好みのリングを答えていたような気がする。
サイズだって、泉が持っている指輪を参考にしたのだろう。
「蒼佑さん、意外と抜け目ないなぁ……」
「適当に選んだものを贈るよりいいだろう? 本当はもう籍を入れてるから結婚指輪をするところだけど、それは結婚式の時のお楽しみにしようと思ってるんだ。それでいい?」
泉の隣に腰を下ろすと、蒼佑は彼女の指を指輪ごと弄んだ。
「もちろん、いいわよ」
結婚式は来年の春に予定している。その時までには結婚指輪の方も準備しておかなければ。蒼佑が何冊ものジュエリーカタログを集めているのを、泉は知っている。
「きれい……」
薬指を輝かせているダイヤモンドにうっとりと見入っていると、蒼佑が泉にぴったりと寄り添ってきた。
「……なぁ泉、分かってるか?」
「ん?」
「今日は、俺たちの初夜だって」
「……分かってるに決まってるじゃない。……さっきから、緊張してるんだから、私」
今日は結婚して初めての夜だ。佑はぐっすりと眠っていて、おそらく朝までは起きないだろう。きっとそれを狙って、蒼佑は佑をめいっぱい遊ばせて、疲れさせていたに違いない。
(私の夫は、案外策士なのかも……)
泉はクスリと笑った。
佑が寝たということは、この後は二人だけの時間が待っている。意識を指輪に向けていたので忘れていたけれど、今日は夕方からずっと、そのことを考えていたのだ。
蒼佑が佑を寝かしつけてくれている間に、泉はお風呂に入った。全身をピカピカに洗い、念入りにチェックする。
一緒に暮らすにあたって、パジャマも新調した。親子三人、お揃いのものだ。
泉が男性とそういう関係になるのは、五年半ぶりだ。蒼佑と一夜を過ごして以来、誰かと恋をする暇なんてなかったからだ。
佑を身ごもってから五年以上、ずっと『母』でしかなかったから。久しぶりに『女』に切り替えるのは、どこか面映ゆい思いがした。
「俺だって緊張してる。あの夜以来、誰ともしたことないんだからな?」
「ほんとに……?」
まさか蒼佑まで同じとは思わず、泉は彼の目を覗き込んだ。
「本当だよ……ベッドに行こうか?」
「ん……蒼佑、抱っこ」
泉は立ち上がった蒼佑に向かって、両手を伸ばした。
「ははは、佑みたいだな?」
「私だって、甘えたい時くらいあるの」
「そっか、泉はいつも頑張ってるもんな。これからは俺がいつでも甘やかしてあげるから。……おいで」
両手を広げた蒼佑の胸に、泉は飛び込んだ。首に腕を、背中に足を絡ませると、そのまま向かい合わせで抱っこされ、寝室まで運ばれた。
二人の寝室は、佑の部屋の前だ。大きなベッドにはボタニカル柄のカバーがかけられていた。泉と蒼佑で選んだリネンだ。
蒼佑は掛け布団を捲り上げ、そこに泉を下ろした。そしてすかさず彼女を組み敷いた。
「――泉、愛してるよ」
全身をとろかす言葉を紡いだそのくちびるで、泉のそれが塞がれる。
再会して二人の想いが通じてから、キスは何度もした。うっかりその先に進みそうになったこともあるが、なんとか踏みとどまった。
だからこそ、早く一つになりたくて仕方がなくて。
「っ、ん……っ」
蒼佑の舌に翻弄されたままではいられないと、泉は懸命に応えた。
「は……い、ずみ……っ」
切羽詰まったように、お互いのパジャマを剥ぎ取っていく。ボタンを外し、肩をはだけさせ、布を排除する。
泉が背中を浮かせると、蒼佑は隙間に手を差し入れ、ブラジャーのホックを外した。
キスを終えた蒼佑は、何もつけていない泉の胸をしばらく眇めた後、はぁ……と、悩ましいため息をついた。
「あぁ、泉だ……全然変わってない……」
蒼佑は吸い寄せられるように、泉の乳嘴にくちづけた。
「っ、ゃ……変わってないなんて、う、そ……っ」
泉は佑を育てる時、少なくとも一歳になるまでは母乳で育てた。だから胸の形は昔より確実に悪くなっている。胸だけではない、身体のあちこちが昔とは違っているはずだ。
「あぁ……そう言われてみれば、確かに前と変わってるかもしれないな。……五年前より、もっときれいになった」
くっと喉の奥で笑いを殺した蒼佑が、泉の胸のふくらみをやわやわと揉む。
「あんっ」
舌と手で胸を愛撫されて、体内に甘い電流が走る。久しぶりに味わう感覚に、身体が過剰に反応してしまう。
カリカリと胸の先端を爪で引っかかれて、首筋がぞわぞわとして。
「ゃ……、そ、すけ……っ」
「ん? どうした?」
「わ、たしも、する……」
泉が身体を起こそうとすると、蒼佑は肩をとん、と突いた。そのまま身体はマットレスに沈む。
「今日は、俺が全部する。……泉は、明日して?」
瞳の奥に欲望の炎をちらつかせながら、蒼佑が艶然と微笑む。
「あ、した……?」
「そうだよ? 俺たちは新婚なんだから。めいっぱい愛し合わないと」
蒼佑は当然という表情で言い放った後、泉の胸に顔を埋めた。ふくらみとふくらみの間を舐めた舌が下へと移動する。同時に、蒼佑の指が泉のショーツにかかり、するすると下ろしてあっという間に抜き取ってしまった。
そのままスムーズに脚を開かれたかと思うと、蒼佑はすかさずその狭間に身体をねじ込み、泉の逃げ道を塞ぐ。
腿を大きく大きく広げられてしまえば、今までぴったりと閉じられていた秘裂の奥が、隠しようもなく暴かれて。
あまりに久しぶりなので、恥ずかしくて反射的に脚を閉じようとするけれど、やっぱり無理だった。
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