第8話 春の夜の夢2

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第8話 春の夜の夢2

「……は、ぁ」 「いやらしいな、本当に」  うっとりと呟く蒼佑が、蜜を掬って秘裂に塗り広げる。  泉の腹の奥が、今にも内側からとろけ落ちそうだ。  まだわずかしか触れられていないのに、もうだいぶ高揚している。  襞を目一杯指で開かれ、陰核を剥き出しにされ、もう隠すものが何もないほど露わになったその場所に、蒼佑がくちびるを落とした。 「あぁっ、んっ、や、だぁ……っ」  じゅる、と蜜を吸われ、花芯を舐られ、びくんびくんと肢体が跳ね上がる。 「嫌だという反応ではない、な」 「んっ、んんっ、あぁ……っ」  気持ちいい。気持ちいい。  悠希に捨てられてからずっと封印してきた泉の中の『女』が、蒼佑によって解放される。  一番敏感な部分に容赦なく降り注ぐ愉悦が、嫌というほど自分が女であることを自覚させた。 「あんっ、ぁ……っ、も、い……ちゃ……っ」  枕を力一杯握ったまま、泉は大きくのけぞった。  蒼佑がくにくにと陰核を押しつぶしたその瞬間―― 「うぅ……っんんっ!!」  泉の中で熟し切っていた甘くて熱い塊がスパークした。  痺れるような快感に溺れていた身体が、急激に静けさを手繰り寄せてぐったりする。 「泉、もう少し頑張ろうな」  蒼佑がローブを脱ぎ、目線をベッドサイドに移す。  泉は彼の腕を掴んだ。 「大丈夫だから……避妊、しなくて……」  彼女の意味することが分かったのか、蒼佑の眉がわずかに寄った。 「……いいのか?」 「そのままがいい……」 (どうかしてるわね、わたし……)  少しだけヤケになっていたことは否めない。  今までこんなお願いをしたことなんてない。  でも、たまにはいいじゃない。  妊娠する心配のない身体で、奔放なセックスをしたって。  異国の地で気が大きくなっているのもあった。 「……分かった」  縋るような目で訴えると、蒼佑はフッと笑う。  泉の足をもう一度開かせ、彼は身体を滑り込ませる。  はちきれんばかりに育ち切った雄芯を、泥濘に押し当てて。  幾度か前後させた後に、蜜口に捻じ込んだ。 「ぁ……」  こんなにも隘路を圧迫する男根を受け入れたのは、生まれて初めて。  肉をみちみちと広げられて、傷がいってしまわないだろうかと心配になるくらい。 「きっつ……泉は大丈夫か?」 「ん……平気……」 「は……うっかりするとイッてしまいそうだ」  ゆるゆると腰を揺らし始める。 「あっ……ん」  熱くなった膣壁を行き来されるたび、内側から新しい愛液が湧いてくるのを感じる。  苦しいのになめらかで、かなりの異物感なのにやけにしっくりくるような感覚さえある。 「……痛くないか?」  気遣わしげに尋ねられ、こくこくとうなずく。 「だ、いじょぶ……っ、んっ」  ばちゅん、と大きく突かれ、襞奥から大きな快感が体内を走った。  リズミカルに秘裂を穿たれ、下腹部に甘気が溜まっていく。 「あっ、あっ、ぅんっ、きもちぃ……っ」 「もっとよくしようか……?」  蒼佑は手を伸ばし、繋がった部分を指でなぞった後、すぐ上で爛熟しきった陰核をやわやわと揉んだ。 「あぁああ!」  内側と外側から愛撫をされ、凄まじい快感に踊らされてしまう。  片足を肩に担ぎ上げられてば、ことさら深く繋がって、子宮口を押し潰される。 「やん! も、だめ、だからぁ……っ! やだやだやだ、も……んっ」 「嫌ならやめようか……?」  ぐいぐいと腰を押しつけられながら問われ、思い切りかぶりを振った。 「やだやだやだぁ……っ、もっとして……っ」 「はは、可愛いな、泉」  高らかに肌を打つ音が室内に響き、ベッドが軋む。  激しい揺さぶりに、身体がバラバラになりそうで。 「あぁんっ、ああっ、あんっ、やっ、い、く……っん!」 「……一緒にいこうか?」 「うんっ、……いくぅっ……んっ、ぅ……あぁ!」  何度も何度も強く深く穿たれ――二人一緒に、弾けるように達した後は、獣の息づかいだけが残された。      ***     「んー……」  目覚めた泉が一番に思ったのは、 (腰が痛い……)  だった。  あれから二度、蒼佑と繋がった。  昨日初めて会った人とは思えないほど、密なセックスをした。  何度も達してトロトロにとろけ落ちた。  満ち足りた時間を過ごし……お互いシャワーも浴びずに抱き合いながらぐっすり寝てしまった。  時計を見ればまだ朝の五時半だ。ふと隣を見ると、端正な寝顔が見えた。  コシの強い髪が乱れて、頬にかかっている。泉は指でそれをそっとよけて整える。 「……ん」  蒼佑の眉間にしわが寄った。泉の指が触れてくすぐったかったのだろうか。 (ふふ……)  ふと悪戯心が湧き、泉は自分の髪を一束取り、彼の顔をこしょこしょとくすぐった。  すると蒼佑は眉間のしわをますます深くして、手で払う仕草をした。 「……Don't do that.(……やめろ)」  英語で返ってきて、泉は目を丸くした。なんだかおかしくて、もう一度くすぐってみる。 「Stop it, Lica. Give me 5 more mitutes……(やめろリカ。もう少し寝かせて……)」 「っ!!」  泉はぴたりと動きを止めた。 (今……『リカ』って、言ったよね)  心臓がバクバクし始める。  もう一度、今度は自分の指で彼の頬をそっと押した。さっきと同じように手で払われたかと思うと、次の一言で、泉の顔から表情が抜け落ちる。 「……All right, all right, I love you, Lica.(分かった分かった、愛してるから、リカ)」 「……」  寝ぼけながら他の女の名前を呼ぶ――あまりにベタすぎて、笑いそうになった。 (結局、そういう人(・・・・・)だったのね)  どうせ元々ゆきずりのようなものだ。  日本に帰ればもう会わない間柄なのだし、火遊びだったと割り切ればいい。  期待なんて……してなかった。しちゃ、いけなかった。 「……バカね、私」  泉はそっとベッドを抜け出し、素早く服を着た。  忘れ物がないか確認し、そして音を立てないように部屋を出る。  自分の部屋に帰ってすぐに荷物をまとめる。  シャワーは空港のラウンジで浴びればいいだろう。今はとにかく、一刻も早くこのホテルから離れたかった。  フロントでチェックアウト手続きをすると、ちょうど空港行きのシャトルバスが出るところだった。  アメリカ人は朝早くから行動するので、バスも早い便があって助かる。  泉はさっさと乗り込むと、シートの背もたれに身体を預け、はぁ、とため息をついた。  空港に着くと、まだだいぶ時間があった。  チェックインして荷物を預け、ラウンジに入る。  シャワーを浴びれば、昨日の残滓が流れ落ちていった。  なんて虚しい情交の名残りなのだろう。  泣きたくなったけれど、我慢する。 「……っ」  蒼佑にも英美里にも、連絡先は教えていない。このまま飛行機に乗ればもう二度と会わないだろう。 「――あんな美形セレブとエッチできたってことで、いい想い出にしたらいいのよ」  泉は無理矢理、自分に言い聞かせた。  ラウンジから姉に電話をかけた。 『また夏にでもいらっしゃいよ』 『そうそう、待ってるからな、イズミ!』  梢もスティーブも、いつでも歓迎すると言ってくれた。  数時間経ってようやく搭乗時間が来た。泉はビジネスクラスなので優先搭乗ができて助かる。  シートに座り、ようやく安堵の息をつけた。  絶対にないとは思っていたけれど、まさかここまで蒼佑が見送りに来たらと思うと、怖くて仕方がなかったのだ。 (やっぱり私は、欠陥品だ……)  これまで生きてきた中で一番、女であることが悔やまれてならなかった。 「……さよなら」  泉は窓の外を眺めて、ぽつりと呟いた。
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