252人が本棚に入れています
本棚に追加
「くれぐれも。……くれぐれも、余計な真似はしないで下さいね?」
……本当にこの人は俺の事を、いったいなんだと思っているのだろう?
その発言は無理矢理抑え込み、勿論とだけ答えた。
控え室に戻ると、渡されたクリアファイルから資料を取り出し、その内容を確認する。
数枚めくったところで、彼女の。
……櫻木 春呼さんの写真が貼られた、プロフィールカードが見付かった。
『春を呼ぶ』、と書いて『はるこ』さん。
その名は明るく元気いっぱいな彼女に、とても合っている。そんな気が、した。
そしてさっき彼女が話していた、相手は……っと。
なるほど。小児科医さん、ねぇ。
しかも次男で、親とは別居。
木ノ下さんはうちの結婚相談所に登録してから既に3ヶ月ほど経っていたから、スタッフが手書きでその印象を、メモ書きとして残していた。
『優しい』『穏和』『やや、人見知りなところあり』。
おそらく女性からしてみたら、母性本能がくすぐられるタイプってヤツだろう。
収入面的にも、性格的にも、俺も迷いなくイチオシさせて頂く優良物件だ。
……通常であれば。
結婚相談所のスタッフがなんて事を考えているんだと、自分でもまったく思わないワケではない。
ワケではないが、しかし……。
面と向かって邪魔することはさすがに憚れるが、何とかしてふたりを引き離したい!
そんな事を考えているだなんてバレぬよう、しれっとさも真面目に仕事中ですよというような顔をして、再び戦場へ。
佐藤さんに参加者の資料を返しながらも、無意識のうちに瞳は春呼さんの姿を探していた。
最初のコメントを投稿しよう!