252人が本棚に入れています
本棚に追加
だけど彼女を見付け、激しく動揺した。
だってあの夜俺と話していた時みたいに、楽しそうに春呼さんは笑っていたから。
公私混同はしない主義だが、弾んでいるらしき会話に不快感と焦燥感が増していく。
そしてそうこうしている間に、艶やかな黒髪をなびかせて、篠崎さんがふたりの間に割って入っていくのが見えた。
うわぁ……あそこに、突っ込んでくのか。
……ホント、猛者過ぎる。
愛を込めてスタッフは篠崎さんの事を、『ハッピー・ブルーバードの主』などと呼んでいる。
それほど彼女の在籍期間は長いし、事務員の子達とも仲良くなり過ぎなほど仲が良い。
見た目は清楚系だが、篠崎さんの中の人はゴリゴリの商人だ。
婚カツパーティーではいつもキャラを作り過ぎているため、空回りしてしまい、結果を残せないでいる彼女。
素の性格はサバサバしていて、うちのスタッフの受けもよい。
だからその飾らない性格を、もっと表に出していけば絶対行けるのにと、皆話している。
普段であればカップル成立目前のところに割り込むような真似はやめて頂きたいと思うところだが、今日は是非とも頑張って貰いたい。
俺の代わりに思う存分、引っ掻き回してくれ。
桐生 大河は、篠崎さんを応援しています!
オリンピックの公式スポンサーみたいな事を考えながら、心の中で全力で応援旗を振る。
とはいえ公私の、私の部分にばかり構っている場合じゃない。
曲がりなりにも俺は、ハッピー・ブルーバードの社員なのだ。
一部の女性のお客様からの熱い視線と、佐藤さんのお前はもう控え室に引っ込んでいてくれというような生暖かい笑顔。
それに気付きながらもそれとなく周囲に気を配り、あぶれてしまっているらしき男性のお客様に声をかけたりしつつ、そっと様子をうかがい続けた。
最初のコメントを投稿しよう!