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策略
「素敵ですね!とはいえ僕は、出来れば妻になる人には、家庭に入って貰えたらなって思っています。
家族を養える程度の収入は、充分にありますし」
嬉しそうに笑いながら、篠崎さんの絶対本心ではない、あざとい発言に答える木ノ下さん。
こういった仕事をしていると、世間では絶滅したと思われているこんな人種にいまだに遭遇する事がある。
そういう生活を望む女性もいるから、それが一概に悪だとも思わないけれど。
先日話した感じだと、春呼さんは仕事大好き人間といった様子だったから、おそらくこの手のタイプの男性とは合わないだろう。
それに少しだけ、不謹慎ながらホッとしたというのに。
……次の瞬間彼女は、可憐な笑みを浮かべて告げたのだ。
「確かに、素敵ですよね。
私もそういう生活、憧れます」
……なん……だと!?
その言葉に、激しく動揺する俺。
……佐藤さんの、お前はいったい何がしたいんだとでもいうような、俺を見る冷ややかな視線が痛い。
しかし春呼さんは微笑んだまま、とんでもない爆弾を投下した。
「それなりに私も、収入はあります。
結婚しても仕事を辞めるつもりはないので、そんな風に家で待っていてくれる、優しくて料理上手な素敵な旦那さまが私も欲しいです。
お互い、頑張りましょう」
見る間に変わる、木ノ下さんの顔色。
凍りつく、パーティー会場内の空気。
だけどそんなモノにはもう見向きもせず、いそいそとビュッフェコーナーに移動して、料理を物色し始める春呼さん。
誰も飲み食いなんかほとんどしていないため、一人バイキング状態と化しているから、まるで異質なモンスターでも見るみたいな、信じられないとでもいうような視線が彼女に集まる。
ヤバい……やっぱりこの子、めちゃくちゃ面白い!
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