策略

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 噴き出すのはギリギリ堪えたが、それでもじわじわと笑いが込み上げ、ふるふると震える肩。  それに気付いたらしき佐藤さんが、ぎょっとしたように瞳を見開いた。  そして俺だけに聞こえるくらいの小さな声で、『何を笑ってるんですか。いい加減にしてください』『ホント、さっさと奥に引っ込んで』などと囁いて来た。  だけどこんなの、無理だ。我慢出来ない。  篠崎さんとほぼ同じタイミングで、思わずブハッと噴き出したその瞬間。  ……春呼さんと、目があった気がした。  その事に一瞬ドキッとしたけれど、それは気のせいだったようだ。  だって彼女の視線は再び俺ではなく、テーブルに綺麗に料理に並べられた料理に向かい、そのまま嬉しそうにワインを物色し始めたから。  選んだワインをひとくち口に含み、満足そうに、そして幸せそうにほころぶ彼女の表情。  安価ながらも美味しいワインを手ずから厳選し、今日のために取り寄せて置いて貰った。  だから中でも俺がお気に入りの赤ワインの味を、彼女も気に入ってくれたらしき様子を目にして、密かにガッツポーズ。  自分自身食べるのが好きだし、美味しそうに飲み食いする人の姿を見るのも好きだ。  先日ふたりでバームクーヘンを夜の公園で頬張った際にも感じたが、この子とは食の好みも似ている気がする。  そしてそれは、食いしん坊な俺の中ではかなり重要なポイントで。  ……この子と仲良くなりたいと、改めて感じた。  とはいえ現状では、それはかなり困難なことと言えよう。  パーティー当日から、当結婚相談所 ハッピー・ブルーバードのマッチングシステムを利用出来る期限は1ヶ月間。  という事は、つまり。  ……期間を延長させることも、婚カツを成功させることもないまま、円満に彼女を退会させる必要がある。
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