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不毛な恋
……いくら私が肉食系だとしても、さすがにこれは、不毛過ぎるでしょ。
さっきの『きゅん』は、酔ってたせい……だよね?
あの人が優しくしてくれるのも、私が顧客だからなんだし!
フゥと大きく息を吐き出し、呼吸を整える。
ようやく大暴れしていた私の心臓も通常のペースを取り戻し、やっぱりきゅんは気のせいだと無理矢理結論付けた。
するとそのタイミングで、コンコンと軽く二度ほどドアをノックされた。
だからどうぞと私が答えると扉が開き、再び桐生さんが顔を覗かせた。
その瞬間ドクンと大きく跳ね上がる、私の心臓。
確かに私は、イケメンが好きだ。
特に可愛い系だったり、八重歯男子に目がない。
だけどそれはあくまで、観賞用としての話だ。
アイドルや俳優を愛でるのは好きだが、こんな風に見た目だけで誰かの事を惚れた事なんて、これまで一度もない。
中の人の性格を知ろうともせずに、一目惚れなんてするタイプの人間を、ちょっと小馬鹿にしていた節すらある。
なのに、どうしよう?
この『きゅん』、やっぱり勘違いなんかじゃないかもしれない!
かろうじて表面には表情を出さぬまま、そんな風にひとり脳内で悶絶していたら、いつの間にか桐生さんがしゃがみこみ、至近距離で私の顔をじっと心配そうに見上げていた。
「えっと……櫻木様?
大丈夫ですか?」
少し掠れたような、でも男性にしてはちょっとだけ高めな、耳に心地よいハスキーボイス。
……非常に、良い!!
「大丈夫です!お手数をおかけして、すみません!」
動揺のあまり、自分で思っていたよりもかなり大きな声が出てしまった。
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