不毛な恋

2/3
前へ
/208ページ
次へ
 それに驚き、大きく見開かれた瞳。  一瞬の間の後、彼は私からフイと顔を背け、耐えられないとでも言いたげにまたしてもプッと吹き出した。  ぐぬぬ……恥ずかし過ぎる。 「膝のところ、やはり軽く消毒だけしておきましょうか」  にっこりと穏やかに微笑む、桐生さん。  そこまでたいした怪我ではないものの、じんわり血がにじみ出てしまっているため、彼の言うように少し手当てはしておいた方が良いかもしれない。  しかしこの流れだとやはり、私が自分でするのではなく、彼がしてくれるという事なのだろうか?  戸惑い、反応に迷う私。  すると桐生さんは私の困惑に気付いているのかいないのか、笑顔のまま告げた。 「このままでは出来ないので、膝辺りまで裾をまくり上げて頂けますか?」  既に消毒液をガーゼに染み込ませ、準備万端らしき彼を前に、動揺しながらも慌ててワイドパンツの裾をグッとまくった。  ショートタイプのストッキングを履いているため、剥き出しになった肌。  ……ケチらずにきちんと永久脱毛をしておいて、本当に良かった。  すると彼は失礼しますとだけ言って私の足首に手をやり、少しだけ膝を曲げさせると、そのまま傷口にガーゼで優しく触れた。  流れるように華麗な一連の動作は、お姫様にガラスの靴を履かせるあのおとぎ話のワンシーンを思わせる。  自分でもびっくりするぐらい、心臓が早鐘を打つ。  おそらく今の私の顔は、アルコールのせいだけではなく真っ赤になっているに違いない。 「すぐに終わるので、しみるとは思いますが、少しだけ我慢して下さいね」    私がこくんと小さく頷くと、彼はまたクスリと笑った。  王子様じゃん。……こんなのもう、完全に王子様じゃん!
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

252人が本棚に入れています
本棚に追加