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まさか現代日本に、こんなにも見目麗しい、ジェントルマンな王子様が存在していようとは。
しかもさっきみたいな気遣いがまったく嫌味なく自然に出来てしまう辺り、きっと彼は優しい人なのだろう。
何故か初対面な気がまったくせず、見た目のせいだけじゃなくあっさり心ときめかされてしまうのは、彼の明るく穏和な人柄によるところが大きいのかもしれない。
こっそり、薬指を盗み見る。
そこに指輪がはめられていない事を確認し、心の中で密かに万歳をした。
「はい、終わりました。
これをフロントに返して、先ほど申し上げました通り、私がご自宅までお送りさせていただきますね」
しかしそこまでこの人に、迷惑を掛けるワケにはいかない。
だってまだパーティーの途中だから、桐生さんには他にも仕事が残っているはずだ。
「いえ、あの、大丈夫です!
駅からも近いですし、桐生さん、まだお仕事も残っています……よね?」
無理矢理脳を稼働させ、答えた。
後半が、疑問形になってしまったのは。
……きっとその事を、ちょっぴり残念に思ってしまっているせいだ。
すると桐生さんはちょっと考えるような素振りを見せたかと思うと、もう一度穏やかに微笑んだ。
「こういった場での私の主な仕事は、トラブルの処理です。
なので今日、これ以上何も問題が起きなければ本当に暇だし、むしろ暇な方が良いぐらいなので」
ということは、つまり。
……現在のトラブル=私、という事ではないか!!
ガンと後頭部を、殴られたような衝撃。
その事実に思い至り、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、涙目になる私。
それを見た彼の口元が、ちょっぴり意地悪く歪んだ気がした。
だけど次に見た時、この人はまた優しく笑っていたから、そんなのはきっと私の見間違いだろう。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言うと彼は当たり前みたいな顔をして足を負傷した私の腰に手をやり、立ち上がらせると、ナチュラルにエスコートしながら再び控え室のドアを開いた。
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