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地雷地帯
「車を表にまわして来ますので、櫻木様はこちらでもう少しお待ち下さい」
穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、ロビーに備え付けられたソファーに私を座らせて、駐車場へと向かった。
「一緒に、行きます。もう、平気なので!」
そこまで彼の手をわずらわせるワケにはいかないから、慌ててそう告げた。
なのに彼はにっこり微笑んで、怪我人なんだからおとなしくしていて下さいと答えた。
はぁ……やっぱり、不毛だ。
どう考えても、モテるであろう男。
しかも結婚相談所のスタッフで、先ほど散々失態を見せた相手を好きになるとか。
今日帰ったら、母親に質問責めにされるに違いない。
良い出会いはあったけれど、その相手について語ろうものならば、お前は何をやっているんだと確実に罵倒されるだろう。
だから何も無かったと答える以外、方法はないのだが。
……それはそれで、あぁ気が重い!
座ったままうつむき、どうしたものかとひとり、頭を抱え考える。
するといつの間に戻って来たのか、桐生さんが私に声をかけた。
「戻りました。あの……大丈夫ですか?
もし具合が悪いようなら、もう少し休んでからにします?」
その声に反応し、顔を上げた。
心配そうに私を覗き込むその表情に、心音がドクンと跳ね上がる。
……無駄に。
「大丈夫です、ありがとうございます」
無理矢理表情筋を動かして笑顔を作り、立ち上がった。
***
ホテルを出たところに停められていたのは、一台の黒い高級外車。
それに少し驚いていたら、彼はちょっと困ったように笑った。
「社用車です、なのでご遠慮なく」
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