252人が本棚に入れています
本棚に追加
流れるようにエレガントに、後ろのドアを開ける彼。
……そりゃあそうか、助手席なワケがないよな。
それを少しだけ残念に思いながらも、お礼の言葉を口にした。
そして彼の言葉に従い、素直に後部座席に腰を下ろした。
車中で交わされるのは当たり障りのない、本当に普通の日常会話。
だけどその話の中で、少しでも彼のことを知ろうと、必死にアンテナを張った。
その結果、いくつか分かった事がある。
彼は私同様、猫よりも犬派である事。
食べたり、飲んだりするのが好きな、食いしん坊である事。
私の住むマンションの近くに、弟が住んでいる事。
更にはその弟が、私の高校の後輩であるらしき事。
実はその、弟。…… 遼河と私の間には、深い因縁がある。
……遊び人で、当時高校生とは思えないぐらい派手に女子を喰い散らかしていたアイツを、私はぶん殴ってしまった過去を持つ。
もちろん私にも、非はあった。
何があろうと、暴力はいけない。
それは、認める。
しかし私の友人を弄んだあの男の事を、私はどうしても許せなかったのだ。
そして、その結果。
不純異性交遊が発覚し、遼河は10日間の。
……私は暴力事件を起こしたため、一週間の自宅謹慎処分となった。
しかもその女友達には、浮気などされてはいないからと。
……そもそも自分達の関係は遊びで、すべて合意の上の関係だったのに余計な真似をするなと、こっぴどく責められるなんていうオマケ付き。
これまで人よりも恥の多い人生を送ってきた自覚のある私だが、これはその中でも最大の黒歴史であると言えよう。
……これが桐生さんにバレるのは、さすがにまずい気がする。
婚カツパーティーでとんでもない発言をした挙げ句、酔っ払ってスッ転んで多大なるご迷惑をお掛けしたという既にイエローカードが二枚たまっているようなこの状況。
その上弟を殴った暴力女、なんてバレたら、間違いなく即退場だ。
……この恋、確実に終わる!
最初のコメントを投稿しよう!