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15年近くも前の話だし、もし本当にそうだったのだとしても、もうそんなのは時効だ。
それにあの男の狡猾な性格から考えて、すべて合意の上での事だったのだろうし。
自分自身もまだ幼かったとはいえ、あの頃のアイツの乱れた生活をちゃんと止め切る事が出来なかったツケが、今になって俺に回ってきたのだろうか?
そう思うのに、ただ苛立ちだけが増していく。
幸いいま彼女は完全に下を向いてしまっているから、そんな俺の醜く身勝手な嫉妬心になんて、気付いてすらいないだろうけれど。
「確かに彼、かなり遊びまくってましたよね。
あの……大変申し上げにくい、お話なのですが。
すみません!!」
座ったまま、ガバッと大きく頭を下げる彼女。
それにぎょっとして、キキーッと急ブレーキを踏んだ。
そして車を路肩に停めると、彼女の方を振り返った。
「えっと……とりあえず顔を、上げて下さい。
でもまさか、アイツとマジでそういう関け……」
動揺のあまり、自然と口をついて出た素の口調。
……しかし俺が、言い終わるより早く。
彼女は食い気味に、全力で否定の言葉を口にした。
「違います。断じて、そういう関係ではありません!!」
***
遼河が高校生の頃、春呼さんの言うように、そういえば自宅謹慎になった事があった。
俺達の母親は、氷の女王などと陰口を叩かれる事があるほど冷徹な女だ。
しかしあの時ばかりは彼女もおおいに取り乱し、当時既に父親の下で暮らしていた俺まで呼び出されての、家族会議が開かれた。
そして遼河のやらかした事を聞き、母は大号泣。
離婚した時ですらも冷静に、淡々と事務的に手続きをこなしていた彼女のそんな姿に驚き、心を痛めたから、俺もよく覚えている。
だが当時の俺は、完全に思い違いをしていた。
そう。遼河がカレシ持ちの女の子に手を出し、その報復として男に殴られたモノだと思い込んでいたのだ。
......なのにまさかあの騒動の相手が、春呼さんだっただなんて。
あまりにも予想外な春呼さんの告白に、唖然とする俺。
でも弟を殴ったという彼女に対して、当時も今も怒りはない。
むしろ名も知らぬその相手に、ずっと感謝していたのだから。
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