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離れて暮らす俺も、一緒に生活していた母親すらも気付けなかった、遼河の持つ二面性。
おそらくあんな事がなければ、さらに長い間、俺達はそれを見抜けなかったに違いない。
己を偽り、相手が望む姿に擬態するのが得意な遼河。
しかもアイツは屈折し過ぎているせいで、一見すると真っ直ぐな人間に見えるからたちが悪い。
幼い頃は天使みたいに可愛くて、俺にもよく懐いてくれていた。
そんな弟しか知らなかったから、彼の抱える闇に俺は気付けなかった。
だけどあれから俺の前では、素の姿を見せるようになってくれた。
だからこそあの事件がなかったら思うと、本当にゾッとする。
だって身内にまで自分を偽り、誤魔化しながら生きていくそんな人生、けっして幸せなモノにはならないと思うから。
生意気で、口が悪くて、性格も良いとは言えないが、それでも俺にとってはアイツは可愛い弟なのだ。
こんな事を言おうものなら、ひねくれもので天の邪鬼な弟には、キモい、うざいと間違いなく罵倒されることだろう。
だから絶対に、言葉にしたりはしないけれど。
何も見えていなかった俺自身に対しては、めちゃくちゃ腹が立った。
しかしそういった事情もあり、俺は遼河を殴った相手に腹を立てたり、ムカついたりはしなかった。
それに殴られたのも、遼河の自業自得によるところが大きいように思う。
節操なく、付き合ってもいない女の子達に手を出し続けていたアイツが、どう考えても悪い。
後腐れないタイプを選んでいたと聞きはしたが、責任もとれないのに高校生が何をやってるんだと、母親がぶちギレて号泣したのも当然だ。
およそ15年目にして判明した、あのクソみたいな騒動の真相。
自然と大きな、ため息が漏れた。
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