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バックミラー越しに、そっと春呼さんの様子を盗み見る。
すると彼女も何故か鏡越しに俺の事を、涙目でじっと見つめていた。
それは……いったい、どういう感情だ?
恥ずかしいだとか、申し訳ないだとかとも、なんとなく違うような気がする。
彼女が何を思っているのかが分からず、困惑した。
「えーっと……櫻木様?
あの、勘違いされているかも知れませんが。
私は別にあなたの事を、責めるつもりもなければ恨んでいるワケでもありません。
あの件に関しては、弟の自業自得と申しますか。
……むしろ、よくぞやってくれたと思っているくらいですし」
あまりにも情けない彼女の表情を目にして、堪えきれずククッと笑いながら告げた。
しかしそこで、厄介な性癖が顔を覗かせてしまった。
そう。……良い年をして俺は、好きな子にはちょっと意地悪がしたいタイプなのだ。
困り顔だとか、泣き顔だとかを見ると、ぶっちゃけすっごい興奮する。
とはいえそういった表情を、俺以外の人間がさせるのは気に食わないワケだが。
ヤバい。やっぱりこの子、めちゃくちゃ可愛い。
泣かせたい。……もとい、鳴かせたい。
だけどそんな物騒な事を考えているだなんて、微塵も思われないであろう穏やかな笑みを、再び顔面に貼り付けた。
「あー……でも、櫻木様。
一応あなたには、お伝えしておいた方が良いかも知れませんね。
実は弟も、同じ結婚相談所で働いているんです。
なので弊社を引き続きご利用頂けるようなら、そのうち彼と会う機会もあるかと」
絶対に彼女が、嫌がるであろうことは想定の範囲内。
これでおとなしく、引き下がってくれたら良いのだが。
無駄に爽やかに告げた言葉に、彼女の可愛い瞳がカッと大きく見開かれた。
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