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暴君の命令
「ま、結婚相談所のスタッフといっても、相手も男性なワケですし。
既婚者じゃないなら、私もありだと思います」
パスタをフォークに綺麗に巻き付けながら、彼女は告げた。
「だよね?とはいえ親には、スタッフさんに一目惚れしただなんて、ぜーったい言えないけど」
昨夜の母親の追及を思い出し、眉間に深いシワが寄るのを感じた。
すると安里ちゃんは私の眉間をつんと指先で突っ付いた。
「春呼さん、シワ!
気を付けないと、痕が残っちゃいますよぉ?」
さすがは女子力オバケの、美容マニア。
自分にも、他人にも厳しいそういうところも、私はわりと好きだけれど。
慌てて指で眉間を擦り、痕が付く前に伸ばした。
「出逢いって、貴重ですしね。
うちの職場、女の子の方が多いし。
それに数少ない男性の中でも、素敵って思える人は皆、ほぼ誰かのお手付きですしねぇ」
食堂内を見渡し、安里ちゃんはまたため息を吐いた。
「それな!でも、ほら。
ああいうシンデレラ・ストーリーも、運が良ければ転がってるかもだし」
チラリと席の後方に視線をやりつつ、こそこそと後半は小声で言った。
その目線の先に座っているのは、そう。
派遣社員の笹本さんと、我が社の豪腕社長 高安 剛さんのふたり。
社長は幼馴染みの笹本さんに、ベタぼれだ。
偶然うちに派遣され、およそ20年ぶりに再会して、彼女が働くようになり。
恋人同士となった今もストーカーみたいに社長がしつこく付きまとっているというのは、いまや社内では公然の秘密となっている。
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