暴君の命令

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「はぁ!?」  社長相手だというのに、思わず柄の悪い声が出てしまった。  私は女性向け人気アパレルブランド、『Calina(カリーナ)』の広報担当だ。  今の季節はまだ春だけれど、もうすぐ夏服のプレセールも始まる。  そんな私に、暇な時なんかあるか!  出来上がった商品の良さを、雑誌や各メディアを通じてお客様にお伝えするのが、私の主な仕事だ。  ちなみにプレスと世間では呼ばれることもあるが、横文字は分かりづらいしなんか嫌だからと、社長の一存で我が社では広報で統一されている。  私が企画から商品に携わることは、通常ない。  なのにいま、商品が完成するしない以前の問題で、見切り発車すらしていない段階の資料を私に見ておけとか。  ……さすがに、意味が分からない。 「……これから私、繁忙期に突入するところですけど?」  ニヤリと口元を歪め、だから自分は忙しいのだとアピールを試みる。  にっこりと、穏やかに微笑む暴君。  ……怒鳴られるよりも、笑顔の方がこわいってどういう事!? 「突入するところ、って事は、まだ突入前って事じゃん?  じゃあ、よろしくぅ」  言いたいことだけ言って、さっさと席を立つ高安社長。  ホント、いい加減にしろ!!  だけどそんな事、言えるはずもなく。  暴君の後ろ姿を唖然としながら見送り、仏頂面のまま安里ちゃんの方を見上げると、彼女はあざと可愛く両手で拳を握り笑った。 「春呼さん、どんまいです。  ファイトぉ♡」 「……安里ちゃんって、意外と冷たい女よね」  恨みがましい視線を向けると、彼女はちょっと考えるような素振りを見せた。  そしてその後、愛らしく人差し指を唇に当て、こてんと小首を傾げて笑った。 「時と場合にはよりますが、長いモノには私、基本巻かれるタイプなので。  春呼さんもいい加減、処世術を学んだ方が良いと思いますよ?」
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