暴君の命令

4/4
前へ
/208ページ
次へ
 ぐぬぬ……確かに。  さすがに30を過ぎたのだから、口と態度には少し気を付けた方が良いかもしれない。  出世欲はあまりないが、上司……それも社長相手に、意図していなかったとはいえ喧嘩を売るような発言はやはり、やめた方がよかろう。  私だって、クビや左遷はこわいのだ。  とはいえ社長は口も態度も底意地も悪いが、あまり根に持つタイプではないので、大丈夫だとは思うけれど。 「それまだ発表前の、大きなプロジェクトっぽいですよね。  ガッツリ、社外秘になっていますし」  封筒に押された真っ赤なスタンプを、綺麗にネイルが施された指先でツンと突っつく安里ちゃん。  あまりにも雑に机の上に放り投げられていたから、その言葉にぎょっとした。  だけど今は食事の途中だし、手に取る気分にもなれなかったから、恨みがましい視線をその封筒に向けた。  目を通しておくよう言われたが、分厚い資料を前に、遠退きかける意識。 「安里ちゃん。……私このままじゃ、過労死するかも」  フフフと虚ろな笑みを浮かべ、呟いた。  だけど彼女はうふふと可憐に笑い、答えた。 「私はむしろ、春呼さんは働いてないと死んじゃう病だと思いますけど。  だってお仕事、大好き人間じゃないですか」  ……後輩からの扱いが、酷過ぎる。 「確かに、大好きだけども!  ……人のことを、止まると死ぬマグロやカツオみたいに言わないで」      この時の私は、考えてもいなかったのだ。  この企画が私と大河さんの関係に、(のち)にどんな影響を及ぼすかなんて。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

252人が本棚に入れています
本棚に追加