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ぐぬぬ……確かに。
さすがに30を過ぎたのだから、口と態度には少し気を付けた方が良いかもしれない。
出世欲はあまりないが、上司……それも社長相手に、意図していなかったとはいえ喧嘩を売るような発言はやはり、やめた方がよかろう。
私だって、クビや左遷はこわいのだ。
とはいえ社長は口も態度も底意地も悪いが、あまり根に持つタイプではないので、大丈夫だとは思うけれど。
「それまだ発表前の、大きなプロジェクトっぽいですよね。
ガッツリ、社外秘になっていますし」
封筒に押された真っ赤なスタンプを、綺麗にネイルが施された指先でツンと突っつく安里ちゃん。
あまりにも雑に机の上に放り投げられていたから、その言葉にぎょっとした。
だけど今は食事の途中だし、手に取る気分にもなれなかったから、恨みがましい視線をその封筒に向けた。
目を通しておくよう言われたが、分厚い資料を前に、遠退きかける意識。
「安里ちゃん。……私このままじゃ、過労死するかも」
フフフと虚ろな笑みを浮かべ、呟いた。
だけど彼女はうふふと可憐に笑い、答えた。
「私はむしろ、春呼さんは働いてないと死んじゃう病だと思いますけど。
だってお仕事、大好き人間じゃないですか」
……後輩からの扱いが、酷過ぎる。
「確かに、大好きだけども!
……人のことを、止まると死ぬマグロやカツオみたいに言わないで」
この時の私は、考えてもいなかったのだ。
この企画が私と大河さんの関係に、後にどんな影響を及ぼすかなんて。
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