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どうしたものかと悩んでいたのだが、ふと思い出した。
ごそごそと引き出しを漁り、三年ぶりぐらいに引っ張り出した小箱。
箱の中身は、そう。以前酔っ払った時に、勢いだけで購入した、オカリナだ。
当然、一度も使用したことはない。
……そしてこれはリコーダーではないが、ないよりはマシかもしれない。
「うん、これで大丈夫ということにしておこう!」
こっそりバッグに、忍ばせた。
***
「おはよう、櫻木ちゃん。
なんか今日は、景気の悪そうな顔してんなぁ?」
うちはフレンドリーな社風ではあるが、言い方!
それに少しいらっとしながらも、笑顔で答えた。
「おはようございます、社長。
そうですか?別に、普通だと思いますけど」
つまらなさそうに歪む、彼の形の良いセクシーな唇。
でも私は別に、この人の娯楽のために生きているワケじゃないのだ。
「そう言えばお前、牡牛座だっけ?
今日の占い、最下位だったぞ!」
本当に、この男だけは!!
当たるも八卦などと言いながら、私を不快にさせるためだけにそんなことを言う辺り、本当に性格が悪過ぎる。
「よく覚えてますね、人の星座まで。
でも、大丈夫ですよ。
ちゃんとこれ、持ってきましたから!」
どや顔で、鞄からいそいそとオカリナを取り出した。
それを見て、ブフォッと吹き出す社長。
「え……?それ、オカリナだよな!?
リコーダーとオカリナは、完全に別もんだろうが!
てか今日の服、ボーダー柄じゃん!
ヤバ……お前、一反木綿でも召喚するつもりかよ?」
長身をふたつに折り曲げるみたいにしてひぃひぃと、お腹を抱えて爆笑する男。
……霊気を感じてではなく、怒りから髪が逆立ちそうだ。
「しませんよ!それでも、無いよりはマシでしょう!?」
あまりにも腹が立ったから、そのまま再びオカリナは鞄に戻した。
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