賢者が、世界の半分を

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「ありがとう。これ、本物だったよ」 前と同じ図書館の隅。彼女は電波ジャマーを机に置く。 「もらった夜にすぐに押してみたんだけどさ。そしたら二、三時間くらいスマホがうんともすんとも動かなくて、すごいね、あれ。その間に来たメッセージも全然届かなくて。復旧した後も結局その間に届いた連絡はなくなっちゃってた」 「それは大変でしたね、すみません」 「いやいや、大した連絡はなかったみたいだったし。あ、ヒロも連絡、その日ってしてないよね」 「はい。何も」 「そっか。でもその後しばらく、なかなか刺激的な日々が過ごせたよ。押しちゃいけないボタンがすぐ側にあるのって」 「そのスリルを今度から私が抱えることになるの、ぞっとしないですね」 「いよいよ困ったら処分した方が良いよ。あるいは嫌いな奴に送りつけるとか」 「考えておきます」 言いながら私は慎重にそれを鞄の中にしまう。そして代わりにドリームキャッチャーを彼女に渡した。 「ありがとうございました。お陰様で良く眠れた、ような気がします」 「それは良かった。どんな夢を見たか、覚えているの」 「結構私、すぐに夢を忘れちゃうタチなんで。あんまり覚えていないんですよね」 「そっか。断片だけでもとかで何か、ない」 「そうですね。あ、でも一個だけ覚えていますよ。借りた日の夜。夢の中でアカネさんと貸し借りをしていました」 「ほう、それは興味深いね。お互い何を貸し借りしていたかも、覚えているの」 「ええ。アカネさんが何を貸したはわからないですけど。私が貸した方のものは、それは」 それはきっと、世界の半分。
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