僕と先輩

1/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 僕は今、ドキドキしている。このまま心臓が止まってしまうくらいに。僕はこのビルから飛び降りようとしていた。すると扉が開いて──。あの人が来た。桜が帰還の喜びを告げるように。  そう。あれは一年前。あの時、僕はアナフィラキシーショックで病院に緊急搬送された。通勤ラッシュ時だったため、救急車の到着が遅れ命に関わる危険性まであったと言う。  僕が目を覚ましたらそこは病室だった。大事をとって三ヶ月入院、そう医師に言われた。それからは窓側のベッドだったので外を見て一日を過ごしていた。そんな生活を続けて五日後包帯で頭を巻かれた人が二人、病室に入ってきた。続いてチューブが運ばれる。そのチューブを運んで来た女性を見る僕の目は離れなかった。気配に気付いたのか女性が僕の方を向く。僕は慌ててそっぽを向いた。すると女性は微笑んだ。可愛らしい笑いだ。ネームプレートには桜と書いてあった。そうか桜と言うのか桜、桜。何度も僕は名前を繰り返した。  それから僕と桜さんは仲良くなった。最初に話しかける事を躊躇い一週間が経ってしまい、終いには桜さんから話し掛けられてしまった。 「先輩はなんでこの仕事を?」 「だからその呼び方やめてって。桜で良いよ」  僕は中学、高校の名残で先輩と呼ぶ癖がついてしまっている。 「そうね、人を守りたいから……かな」 「守りたい、ですか」  助けたいと言うと思っていた僕は思わず聞き返す。 「うん。どんな人でも守りたいのよ。怪我をしてればね」 「え、じゃあ僕は守ってくれないんですか?」  僕は身体中を見回して言う。身体に傷をつけたくなった事は墓場まで持っていこう。 「もちろん、怪我したら守ってあげるけど……今は駄目だなぁ?」  先輩はいつも僕をからかって来る。無邪気だ。だけど頼れる。一緒にいて安心する。 「そうですか、今は、ですね!」 「うわー、めっちゃポジティブじゃん。分かったわ。怪我したら……ね?」 「はいっ!」  そんな平和な日々をぶち壊したのは桜が散る頃だった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!