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僕は今、ドキドキしている。このまま心臓が止まってしまうくらいに。僕はこのビルから飛び降りようとしていた。すると扉が開いて──。あの人が来た。桜が帰還の喜びを告げるように。
そう。あれは一年前。あの時、僕はアナフィラキシーショックで病院に緊急搬送された。通勤ラッシュ時だったため、救急車の到着が遅れ命に関わる危険性まであったと言う。
僕が目を覚ましたらそこは病室だった。大事をとって三ヶ月入院、そう医師に言われた。それからは窓側のベッドだったので外を見て一日を過ごしていた。そんな生活を続けて五日後包帯で頭を巻かれた人が二人、病室に入ってきた。続いてチューブが運ばれる。そのチューブを運んで来た女性を見る僕の目は離れなかった。気配に気付いたのか女性が僕の方を向く。僕は慌ててそっぽを向いた。すると女性は微笑んだ。可愛らしい笑いだ。ネームプレートには桜と書いてあった。そうか桜と言うのか桜、桜。何度も僕は名前を繰り返した。
それから僕と桜さんは仲良くなった。最初に話しかける事を躊躇い一週間が経ってしまい、終いには桜さんから話し掛けられてしまった。
「先輩はなんでこの仕事を?」
「だからその呼び方やめてって。桜で良いよ」
僕は中学、高校の名残で先輩と呼ぶ癖がついてしまっている。
「そうね、人を守りたいから……かな」
「守りたい、ですか」
助けたいと言うと思っていた僕は思わず聞き返す。
「うん。どんな人でも守りたいのよ。怪我をしてればね」
「え、じゃあ僕は守ってくれないんですか?」
僕は身体中を見回して言う。身体に傷をつけたくなった事は墓場まで持っていこう。
「もちろん、怪我したら守ってあげるけど……今は駄目だなぁ?」
先輩はいつも僕をからかって来る。無邪気だ。だけど頼れる。一緒にいて安心する。
「そうですか、今は、ですね!」
「うわー、めっちゃポジティブじゃん。分かったわ。怪我したら……ね?」
「はいっ!」
そんな平和な日々をぶち壊したのは桜が散る頃だった。
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