4人が本棚に入れています
本棚に追加
2年生のクラス替えで桜と私は1組、来夢とスミレは2組になった。必然的に桜と2人だけの時間が増えた。桜を思う存分独占できるようになったことで、桜といつか離れ離れになるかもしれないという不安はどこかへ消えた。
相も変わらず、桜とスミレが忙しい日は練習後に来夢の家に通っていたことも大きかったかもしれない。来夢を媒介して妄想の中の桜と抱き合って好きだと言い合えば、細かいことはどうでもよくなった。
バンドではオリジナル曲もプログラムに入れるようになった。私が書いた詞に、桜がコードとメロディーを載せていく。桜の曲は世の中のヒットソングと比べても遜色ないと思う。片思いを綴ったラブソングの歌詞、これが桜のことだと桜は知らないままに、最高の名曲を作り上げ、ドラムを叩く。
「すっげー! 天才じゃん! これはメジャーデビューしてミリオンいけるレベルっしょ!」
来夢は桜を絶賛した。私も負けじと桜に賛辞を贈る。
「いちごもだよ。やっぱり、いちごは桜の最高の相方だよな」
来夢が私の目を見つめて言う。真剣なまなざしに、心臓がドクンとなった。
来夢の詞にはスミレが曲をつけた。こちらは来夢が書いただけあって、夢に向かって一直線に突き進む内容の歌詞だった。タイトルは「Dream」というストレートなものでサビの言葉選びは来夢の独特のセンスが光っている。
「ちゃんとスマホでスペル調べたからドリームのスペルは合ってるはず! あたしたちの曲も天才的だろ! WAVE×WAVEって最強なんじゃね?」
満面の笑みでギターをかき鳴らす来夢。
「とりあえず、この学校の伝説になるところからだな!」
私たちの中で、1番夢や目標をはっきり口にする来夢が書いた歌詞と言うだけあって、1つ1つのフレーズから決意と希望が溢れていた。
人生で1番キラキラした季節を私たちは今生きている。大好きな桜、同志でライバルの来夢、気が合う友達のスミレとともに放課後音楽を奏でる日々。この毎日が永遠に続くのならば他には何もいらない。
文化祭当日、初めて自分たちのオリジナルソングを演奏するという事実に去年よりも緊張した。
「楽しんでいこうぜ! WAVE×WAVEは宇宙で1番最強なんだからさ!」
私の背中を叩いて鼓舞する来夢はなんだか大きく見えた。
文化祭と言うビッグイベントが終わった直後は部活でも何となく気が緩む。本当は次のライブのことを常に考えていないといけないのだけれど、雑談をすることも増えた。
「あたし、いちごの身長抜いたかも」
来夢がいきなり言う。もしかしたら、文化祭の時に来夢が大きく見えたのは気のせいなんかではなく、実際に背が伸びていたからなのかもしれない。しかし、来夢に負けるのはたとえそれが身長であっても癪だった。
「それはさすがに気のせい」
「本当だって! 試しに背比べするか?」
「上等!」
来夢と背中合わせになって、桜が私と来夢の頭に手を当てる。
「うーん、微妙に来夢の方が高いかも」
「よっしゃあ、あたしの勝ち!」
来夢はチラチラとスミレを見ている。来夢はスミレの彼氏である男子バスケ部の元キャプテンに敵対心を抱いている。しょうがない、今日くらいは花を持たせてあげよう。でも、来夢は私のライバルだから、私にとって身長がどうでもいいことであってもやっぱり悔しい。
「もしかしたらスミレの背も抜いてるかも。スミレも背比べしよ!」
来夢はスミレと背中をくっつけ合って喜んでいる。私をダシにしてやりたい放題だ。ちょっとイライラした。微差ではあるものの、スミレの身長はまだ追い越していないようだ。
「じゃあ次はいちごと桜の番な!」
「いや、見れば分かるじゃん」
桜が苦笑する。桜の身長は167センチで私の身長は152センチ。比べるまでもない。
「いやいや、桜だけハブるのは倫理的にまずいっしょ! あたしたちは4人でWAVE×WAVEなんだから! ほら、背中合わせて!」
来夢に手を引かれるままに桜と密着する。制服越しに桜を感じる。来夢が舌を出して私にウィンクした。機嫌が良くなった来夢は私に気を使ってくれているんだろう。調子のいい言動も、たぶんこれからしばらく身長ネタでマウンティングしてくるであろう未来も全部許してあげることにする。
「いちごと桜ってなんかカップルの身長差って感じだなー」
束の間の桜との恋人気分を堪能する。これだけいい思いができるなら、今日は私の負けでいい。
最初のコメントを投稿しよう!