WAVE×WAVE forever

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 私たちの心配は杞憂に終わり、新学期、私たち4人は全員同じクラスになった。もっとも部活以外の時は、来夢はスミレと、私は桜と2人で行動していたので今までと何も変わらなかった。  私と来夢の秘密の関係も際限なくエスカレートするのではないかと不安になったが、そちらも杞憂だった。センチメンタルな気分になっていたのはほんの気の迷いで、来夢が大人のキスだのなんだの言い出すことはなくなった。  頬には何度かキスしたけれど、唇にすることは一切なかったし、そんな気配もなかった。  部活では、来夢が作詞作曲をしたオリジナルソングを発表した。この曲をどうしてもやりたいんだと言ったのは、前向きなラブソング。タイトルは「You」というまたしても来夢らしいストレートなものだった。歌い出しでいきなり「I love you」と言うところも来夢らしい。桜とスミレは「いいんじゃない?」と普通の反応をしていた。直接的かつ具体的なエピソードやキーワードはなかったものの、私にはこれがスミレに宛てたラブソングだとすぐに分かった。そして、この曲には痛いほど共感できた。来夢にとっての愛する「You」はスミレ。私にとっての愛する「You」は桜。すごく感情をこめて弾けそうだ。  みんなで編曲をして、WAVE×WAVEは文化祭に向けて突き進む。 「ほんとはさー、もうちょい上のキーにする予定だったんだけど、それだと1番高い音出ないんだよね! だからボイトレ教室通おうかと思ったんだけど、クソババアにそんな金ないってブチギレられてさ、ありえねーって感じ!」 「私はこのキーの方が雰囲気出てて好きだけどね」 「マジで? じゃあやっぱりこのキーにしたあたし天才じゃん! あれ?それに気づいた桜が天才なのか? ま、いっか。両方天才ってことで!」  世界中の青春はきっとこの部室に凝縮されている。  キラキラした日々が続く。私も桜も変わらない。もちろん、ベースは始めた頃よりずっとうまくなっている。でも、それ以外は何も変わらない。けれども、来夢はいつの間にか、桜と並ぶくらい背が高くなっていた。 「来夢、昔は私より背低かったのに、今は桜と同じくらいなんだよね」  来夢の家で、ベースを弾いた後、お互いの頬にキスをして来夢に後ろから抱き着かれぼーっとしていると、ふと頭に浮かんだことが口をついた。 「いちご的には桜との共通点は多い方がいいだろ。あたしはもうちょっと男子みたいに大きくなりたいんだけどな。でも、さすがにそろそろ身長止まりそう」  もう今更否定するのも面倒になっていた。もっとも桜が好きだと私の口から明言することはなかったけれど。来夢の言う通り、来夢と桜はよく似ている。けれども、来夢が私のどこにスミレの面影を見ているのかは想像がつかなかった。来夢には今更遠慮することもないので直接聞いてみた。 「ザ・女の子ってところ。可愛いところ。ざっくりいうと顔の系統似てるよな。身長も同じくらいだし、好きな女の子に体重は聞けないけどたぶん体重も同じくらいだろ。あと、手の温度とか体温も同じくらいだった。髪がサラサラなところ。本質的に真面目なところ。慎重なところ。思い出とか初心とかを大事にするところ。家族を大事にするところ。あたしは親に逆らって勝手に髪染めてるけど、スミレもいちごもちゃんと親の言いつけ守ってるだろ。夜はギター弾くなって話も、ギター取り上げられかけたから守ってるだけで本当はふざけんなクソババアって思ってるし、ばあちゃん経由でバレないならたぶんこっそり弾いてるしな。ちゃんと人のこと思いやれるところ。素直なところ。守ってあげたくなるところ、こんなところかな」  思いのほかたくさん理由があったようだ。 「ほんとになー、なんでこんなに似てるのにスミレじゃなきゃダメなんだろうなー」 「初恋だからじゃないの」 「あー、なるほど。やっぱりいちごって天才だな」  私の初恋は桜。桜より素敵な女の人に出会うことも、桜よりカッコイイ男の人に出会うこともきっとこの先ないと思う。
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