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亜矢が思わず足を止めて見ていると、次の瞬間、ワカメちゃんがダッとそのその人を追って駆け出した。長身痩躯の鶴のような老教授はとても老人とは思えないスピードで
ピンクさんを追いかけ、第二学舎を横断する距離を駆け抜けたが、彼女が東館の入り口に消えてゆくのを見るとさすがに深追いはせず校門の方に戻って来た。
門付近にいた学生達から、ほぅーという声にならない小さなどよめきが漏れ、しばらく緩慢になっていた動きがまた元の速度に戻った。
亜矢自身はその朝、薄い水色のカッターシャツを着ていた。亜矢の目の前に立った眼鏡の気の弱そうな中年の先生は、
「君ィ、それは白とは言い難いがねぇ‥」
とちょっと遠慮がちにおっしゃったがそれ以上の言及はなかったので、亜矢は曖昧に頭を下げて関所を通り抜けた。
我ながら強気になったものだと思う。元々は小心者で規則を破るとか、先生に怒られる
といったことには人一倍ビクビクと行きて来たのだが、この女子大に入学してから一年ほど経ったうららかな五月の初旬、先生に注意されるというような事態にもわりと平然と対処しているのであった。
むろん、さっきのような、当番に当たって仕方なく検問に立っているらしい気弱な先生ばかりではない。
いきなり、廊下を向こうから歩いて来た先生に歳を聞かれたことがある。
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