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9月
9月ー邂逅ー
夏が終わる。9月1日。一月の間会うことのなかったクラスメイト同士はどこかぎこちなく、何とも言えない気まずい空気が漂う。
午前のみで終わった始業式。まだ蒸し暑さが残る室外に出ると、じっとりとした汗がにじみ出てくる。
何か飲むものでも買おうと、購買の自動販売機に向かう途中、思いがけず僕は彼女との二度目の邂逅を果たした。
反対側からうつむきがちに歩いてくる彼女。同じ学校だったのか、と運命に感謝しつつ、突然話しかけることができるほどメンタルの強くない僕はそのまま彼女とすれ違った。
すると、彼女の閉じかけの指定鞄から何かが落ちた。すぐさま拾って彼女に後ろから声をかけるが、届かなかったのか、彼女は校舎の方向へと歩いて行ってしまった。呆然と彼女の行ったほうを見て立ち尽くす僕に、後から追いかけてきたのだろうか、友達が肩に腕を置いて話しかける。
「よう、あきと…それ何?」
我に返り、手元を見れば、彼女の落とし物。それはファンシーなキャラクターがデザインされた可愛いピンクのシャーペンだった。
「あのさ、これ落とし物なんだけど誰のか知ってる?」
そいつに尋ねるが、首を振るだけで情報は得られない。
僕らは晩夏の渡り廊下で二人、特に為せることもなく持ち主を離れたシャーペンを見つめた。
三日後、僕はついに彼女の名前を知った。
あれから、同じ塾の講習なら同学年のはずだ、と思い7クラスある自学年の教室を総当たりした。高3は2つの進学クラスと5つの通常クラスでなっていて、それぞれ成績順に割り振られている。僕は通常クラスの一番上、3a-1。
僕は知り合いが多く人を尋ねやすい通常クラスから当たっていった。しかし、誰一人としてシャーペンのことを知らず、他クラスに入るたびに冷ややかな目線を浴びなければならない僕は、すでに心が折れかけていた。
残るは進学クラス。通常クラスと違い、進学クラスはB棟にあるので渡り廊下を使わなければいけない。B棟内にある階段を上る僕の足取りは重い。
僕はあまり進学組に知り合いがいない。そればかりか、進学クラスにはいわゆる「ガリ勉」が非常に多い。通常クラスにも少なからずいるが、進学クラスは特に多い。休み時間も、基本的に彼らは机に向かい、問題集やなんやらを解いている。そんな感じだから異常に人に話しかけづらい。
進学クラスの最上位、3s-1教室に後ろのドアから入る。案の定、大多数の生徒が着席して何かをノートに書いている。
しかし、幸いなことに、三人の女子が窓際でガールズトークをしていた。僕はその女子たちにシャーペンを手に話しかける。
「これ、誰のか分かる?」
すると、一人が「あ!それ、みつきのじゃん!」と良いリアクションで言う。
そして、その女子は彼女を呼んだ。机とにらめっこしていた彼女は自分を呼ぶ声で顔をあげる。僕はその時やっと彼女の席を認識することができた。彼女が立ち上がりこちらに近づいてくる。僕にはその動作がひどくゆっくりに感じてならなかった。まるで時間の流れがここだけ遅くなってしまったかのように。
初めて出会ってから、ちゃんと見ることができなかった彼女が今、目の前にいる。それだけでなぜか嬉しくなった。それと同時に、3年間、同じ敷地内に居たはずの彼女を知らなかった、気づかなかった自分を恨めしく思った。
窓から差し込んだ光が彼女をライトアップしている。ゆっくりと開かれた口から出た言葉は、「君、どこかで…」
彼女を呼んだ女子が「みつきのシャーペン、この人が拾ってくれたんだって!」と快活に僕の紹介をする。僕はそこでおずおずとそれを差し出し、彼女にぎこちない笑顔を見せる。すると、彼女は受け取って僕を怪訝そうに見つめた。
彼女が聞いているかどうかにかかわらずマシンガントークを続ける女子たち。
適当にうなずきながら記憶をたどる彼女。勉強の手を止めない周囲。
その中でイレギュラーな存在、僕。
この不思議な状況を打破したのは授業開始5分前のチャイム。
「あ、じゃあこれで…」とこの場を離れる理由ができた僕は彼女たちに会釈をして3s-1教室を出た。
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