林檎を求める彼女

3/10
前へ
/112ページ
次へ
私は教科書を準備しなければと思い、月曜一限の時間割を確認すると、そこには英語という文字があった。その文字を見て、一気に落胆する。英語という科目自体は嫌いじゃないのだが、英語の先生がどうも好きになれないのだ。その人は、定年間近である年配の先生で、あまりやる気がないのか、ただ先生が教科書を読むのを聞くだけの時間が続く。だから、いつも睡魔と格闘しなければならないのだ。 私がひっそりとため息をつくと、白く淡い吐息が口の中から吐き出された。 授業が始まり、三十分くらい経っただろうか。そろそろ瞼が落ちてきて、耐えられそうにない。ちょっとくらい寝てもいいかな、いつもは真面目に受けているしと心の中で言い訳をし、睡魔との格闘を諦めようとしたとき、後ろから急に背中をつつかれた。 突然背中に走った刺激のおかげで、完全に目が覚めた。 この刺激を私に与えた犯人は白澄だった。 何の用だろうと思い、後ろを振り返ると、白澄が「寝てただろ」と口パクをしながら、小さなメモ用紙を渡してきた。メモ用紙と言っても、ノートの切れ端のようなものだ。 白澄との授業中のメモのやり取りは一年生の時から続いている。お互い、授業に飽きた時は、しょうもないことを書いてやり取りし、暇つぶしをするのだ。 「寝てない」と口パクで言い返しながら、そのメモ用紙を受け取ると、「今日放課後に俺の家の前に集合」と記されていた。 「了解、でも何で?」と白澄が渡してきたメモ用紙に書き込み、彼に送り返す。教科書のみと向き合っている先生に、ばれることはないだろうが、念の為に少し前の方を気にしながら、メモ用紙を渡した。 「秘密」 とても、もったいぶった文字がメモ用紙に書かれて私のもとに戻ってきた。 秘密って・・・・。 何をそんなにもったいぶっているのだろう。教えてくれたっていいのに。 文字でやり取りをしている途中に、会話をするのはルール違反だと思ったが、私は彼に真意を聞きたく、後ろを振り返った。しかし、白澄は頬杖をつきながら、いつもの爽やか笑顔を浮かべているだけで教えてくれそうにはなかったので、私は仕方なく前を向き直る。 気になって仕方がないけれど、ここは、しょうがないから白澄の好きなようにしておこうという結論に至った。彼には何かしら考えがあるのだろう。            
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加