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「なんというか、すごく意外です。……私はチーフが、あ、大槻さんが好きですけど、まさか大槻さ──」
「今なんて言った? 葛城さん今、あ、あのゴメン!」
つい気持ちが昂って、空いた右手で彼女の左肩を掴んでしまった。
これは不味い、と隼人は慌てて手を離し、彼女に詫びる。
「大槻さんが好きだって言いました」
胸元に落ちた髪を手で後ろに払って、唯は落ち着いた態度を崩さず隼人の問いに答えた。
「そんなことはいいんです。それより大槻さんの──」
「よくない、全然よくないって!」
冷静になって考えてみると、この噛み合わない会話はいったいなんなのか。隼人は唯が気になっていて、彼女は隼人が好きだと言う。
いや、そうではない。
──気になっている、だなんて。
どこまでも真っ直ぐに本音を偽ることもない相手に、こんなところまで来て予防線を張っている自分の臆病さが際立った。
情けない。
職場恋愛はリスクが大き過ぎると避けて来た。
とはいえこれまでは具体的な対象こそ存在しなかったが、常に一歩引いて面倒に巻き込まれないよう細心の注意を払ってきたのは間違いない。
けれど、もう心は走り出していた。理屈をつけながらも、現に彼女を誘い出しているのだから言い訳のしようもなかった。
そうだ。認めるしかない。
あの胸の高鳴りは、今のこの熱い想いは、恋だ。
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