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「凄い美人だけど、怖すぎてちょっと無理です」  同じグループの二年目の男性社員が、以前に有志の飲み会で唯について漏らした言葉を思い出す。今日の卓也とはまるで違う見解だが、世間一般的にはこちらが普通かもしれない。 「いや、お前がよくても、向こうのほうがお断りなんじゃないか?」というのは、もちろん胸の中だけに留めておいた。  隼人にとって彼女は、正直掴みどころがなく扱いに迷う部分もある存在だったのも否めない。  それでも決して悪感情を持っていたわけではなく、仕事仲間としてはどちらかというと好感を抱いていたのは確かだ。  言い換えれば、単にその程度でしかなかった。いま、この瞬間までは。  隼人の胸が早鐘を打ち始める。  もう三十も目前だというのに何を十代の少年のように浮かれているのか、と叱咤する内心の声は、己の鼓動に搔き消されてしまった。  ──もっと知りたい。俺の知らない彼女を。 「なぁ、……」  何を言うべきか判断できないまま咄嗟に口を開いたもののあとが続かない隼人に、唯は軽く頭を下げる。  そしてそのまま背中を向けたかと思うと、駅への道を低いヒールの靴で足早に去って行った。
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