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【3】
「葛城さん」
ある金曜日の仕事終わり。
隼人は席を立った彼女を追い掛けて、オフィスを出たところで呼び止めた。
「このあと空いてる? あ、別に今日でなくてもいいんだけど。いきなりだし、何か予定ある、かな?」
「いいえ、何も」
「あ~じゃあさ、お茶でも飲みに行かない?」
あっさり答える唯に、平静を装って誘いを掛ける。
この半月以上、考えて、考えて。
結局は何の捻りもない正面突破しか思い付かなかった。しかし彼女に対しては、変に策を弄するよりはこの方がいい気もする。
「……ええ、いいですよ」
とりあえず承諾は得られて、隼人は内心ホッとした。
唯のことだから、何の遠慮もなく「なんで時間外まで職場の人と付き合わなきゃならないんですか?」と冷たく断られても驚くことはない。
「どこか行きたいとこある? あ、コーヒー好きかな? 苦手なら言ってね」
「好きというほどじゃありませんけど、飲めますよ。でもあんまり本格的なお店だと、味がわからなくて申し訳ないかもしれません」
それくらいライトな方が、かえって好都合だった。隼人自身、コーヒーにはまったく拘りなどはないからだ。
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