【3】

1/5

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

【3】

「葛城さん」  ある金曜日の仕事終わり。  隼人は席を立った彼女を追い掛けて、オフィスを出たところで呼び止めた。 「このあと空いてる? あ、別に今日でなくてもいいんだけど。いきなりだし、何か予定ある、かな?」 「いいえ、何も」 「あ~じゃあさ、お茶でも飲みに行かない?」  あっさり答える唯に、平静を装って誘いを掛ける。  この半月以上、考えて、考えて。  結局は何の捻りもない正面突破しか思い付かなかった。しかし彼女に対しては、変に策を弄するよりはこの方がいい気もする。 「……ええ、いいですよ」  とりあえず承諾は得られて、隼人は内心ホッとした。  唯のことだから、何の遠慮もなく「なんで時間外まで職場の人と付き合わなきゃならないんですか?」と冷たく断られても驚くことはない。 「どこか行きたいとこある? あ、コーヒー好きかな? 苦手なら言ってね」 「好きというほどじゃありませんけど、飲めますよ。でもあんまり本格的なお店だと、味がわからなくて申し訳ないかもしれません」  それくらいライトな方が、かえって好都合だった。隼人自身、コーヒーにはまったく拘りなどはないからだ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加