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「葛城さん、今帰り?」
「はい」
オフィスの入るビルのエントランス。
大槻 隼人の問いに、同じ部署の葛城 唯はつと視線を寄越し頷いた。
控えめなフリルのついた白いブラウスに、春らしい花柄のスカート。身に着けたものはごく普通で、良くも悪くも目立たない。
ただ、決して派手に飾らなくとも容姿は際立っていた。
背も高い方だと思うが、彼女は踵の高い靴を履かないのでハイヒールの他の女性と並ぶと差がわからない程度だ。
わざわざ離れて歩くのも不自然で、隼人はあまり絡みのない後輩社員とぽつぽつと取り留めのない会話を交わしながら並んで駅へと向かう。
現時点で唯との一番の話題は、今日職場で起きたアルバイト学生をめぐるちょっとした事件だった。
他に彼女と話すようなことがあるわけでもなく、自然と話はそちらへ流れて行く。
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