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 ここが正念場と、隼人は彼女の目を見つめて言葉に心を込める。 「俺が、好きなんだ。君を」 「そう、ですか」  ふと目を伏せた彼女の、相変わらずの平坦な相槌。  ──だからそれはどういう、……! 「嬉しいです」  改めて視線を合わせてふわりと花が咲くように笑った唯に、隼人も笑顔でなんとか声を発した。 「じゃあ、あの。これから、よろしく、でいいかな?」 「はい。お願いします」  しかし交際を受け入れつつも、一筋縄ではいかない彼女はまだ安心させてはくれなかった。 「大槻さん。私、普段は男物のパーカーにカーゴパンツとかなんですよ。楽だから。こういう格好するの、仕事のときだけなんですけど」 「……うん? だからそれが?」  いきなり意味不明の話を始めた唯に、頭の中には疑問符しか浮かばない。 「いいんですか?」 「俺だって仕事以外でスーツなんか着ないよ。家の中ではスウェットとか着てるし。そのまま外出はしないけどさ。スーツはまあ戦闘服だな。君もそうだろ?」  一瞬虚を突かれたような表情を見せて、唯が頷く。 「あ! でもこれから大槻さんと会うときは、もうちょっとちゃんとした服着ます。仕事用とは違うのを買っておきますね」 「それはともかく、週末にでも出掛けようか」  まだ収まらない動悸の原因である不思議なは、隼人が自然を装って差し出した手をそっと握ってくれた。                               ~END~
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