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序 章・抑止力
ぼくは武器を高々と天にかざした。
──幾人をも毒牙にかけてきたことか……
武器入手以来、ぼくの生活も意識も一変した。護身の手段が備わったことで、安心感は格段に増すし、いざとなれば、こちらから挑発して先手を打ち、力の拮抗を保つことすら容易くなった。これまで虐げられ続けた相手とも互角に渡り合えるまでになったのだ。
──これぞ武装の賜物である!
──やはり、戦力はバランスが大事なのだ!
ぼくは、つくづくそう思う。
──だが、ひとたびバランスが崩れでもしたら?
どちらか一方が強大な戦力を保持するに至ったとき、ましてや、愚人にその力を与えてしまった場合、悲惨な末路を辿るのは必定だろう。それに対抗するには、更に、こちらも敵を上回る破壊力で応戦せねば愚人に平和は乱され、血の雨が降り注ぐ結果となる。
──ぼくは、たった今、気づいた!
──永遠に抜け出せぬ負のスパイラルに陥ったことに……
どうやらぼくは、取り返しのつかぬことをしでかしてしまったようだ。
──ぼくが放った一撃が!
──相手を怯ませはしたものの……
──相手にも同等の力を与えてしまう素地を作ったのだ!
自分の愚かさを嘆いたところで最早、あとの祭りだ。
──今後、拮抗を保つには……?
──両陣営、際限のない武力増強をはかる必要が出てきたということだ!
ぼくは、再度、武器を見つめ直した。武力行使の甘い誘惑に身悶えせんばかりに心疼く。明日の闘争の場面を思い起こしながら、体は震え出した。
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