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後日、白石君はぼくらの教室に現れて、ぼくの顔を見るやボールを放って返還してくれた。
ぼくが近づいて彼の前に立つと、
「“お調子者の悪戯小僧”から借りただけだ」
ボソボソと自ら事の成り行きを語り、上目遣いに、
「ゴメン」
と悪童らしくぶっきらぼうに言い放ったとたん、不機嫌そうに踵を返して、頭をかきながら去って行く。
その滑稽な照れ隠しに、ぼくの口元は緩んで自ずと笑みがこぼれた。彼の性格は熟知している。今まさに反省中のはずだ。
「はじめから正直に言えばいいのに……」
彼の不器用さに呆れ果てながら呟いていた。
ぼくは、ぼんやりと事件の全容を思い浮かべた。強大な力を授けてくれた悪童の背中を頼もしく見送りつつ、感謝の念すら抱いたのだ。
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