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学校から帰宅すると、決まって自室に籠った。
椅子に座り続け、己が右手を高々と掲げる。決して美しいとも、さして大きくもない。敵をやっつけて勝ち名乗りを上げる妄想に耽りながら、拳を握り締めてみる。と、今まで頼りなくナヨナヨしていたそれは、たちまち脆弱さをどこか彼方に追いやり、硬くてたくましいよすがへと変貌を遂げた。
より一層拳を握り締めながら見とれてしまったぼくは、恋焦がれ、全身が震え出した。
思わず椅子を蹴散らしながら立ち上がり、目の前の見えない敵に拳を食らわした。架空の相手をたった一発でノックアウトすると、有頂天になってその場で小躍りを始めた。
しばらくして興奮をおさめ、静止した。もう一度拳を高々と掲げてみる。
──ぼくは、たった今、武器を手に入れたのだ!
拳を見上げながら腹の底から叫んだ。ぼくの声は少々震えていた。
「武器よコンニチハ!」
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