あおい

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 がちゃり、と外側から鍵をかけるのは、本来してはいけないのだが、これでとりあえず一人は約束される。今日が最初で最後だから、と心の中で言い訳をしながら、屋上の開放感に大きく伸びをした。これだけでも、割とすっきりするものだ。  もう一つだけ最初で最後、と私は一本、煙草に火をつける。適度な苦味と仄かな酸味が頭をほぐし、身体に安らぎをまわしてくれる。いつもの味に、私はゆったりと落ち着き始めた。そして、微かに甘みの溶け出した紫煙、この甘みは私のものではない、焼け焦げ廃れていくだけの大人の身体に紛れた純粋を、少しずつ外へと逃していく。これは、私にはもう、身に余る、生徒に比べて十年先を生きているというだけで、現実というのはずしりと重みを増し、彼らのように、あんな身軽に、気持ちに向かって駆け抜けていくことができなくなっていく。あの告白の終わりは決して良いものではない、そうしてリスクのある未来には蓋をして、整備された安心安全の道路を車で走っていく、大人になるとはそういうことだ。  私はもう、大人なのだから。  不意に、じわっと、煙草が滲み出す。けれども、火はゆらゆらと消えず、それに答えるように頬からひとつ、透明が滑り落ちた。  慌てて拭うが、またひとつ、またひとつ、左に、右にと、零れ落ちていく。 『先生のことが好きです』  先生、そう呼んでいる時点で、叶わないかもしれないと臆さないのか。  本当に愚直、こんな私のどこに惚れたというのか。  大人の私は、『好き』という言葉を真っ直ぐにも受け取れないほど、臆病者だというのに。  「ありがとう」や「嬉しい」という感情が二の次になっていく虚しさ、これも大人になるということなのだろうか。いや、違う、意気地なしの私だから、伝えることができなかったのだ。これを伝えることで、相手に明るい誤解を与えてしまっては駄目だと、喉の奥に抑え込んだ温かな感情が、涙に姿を変えて幾つも溢れていく。  かなしい。とても、かなしい。   子どものようにぽろぽろと泣いている自分に、大人ぶった自分が怪訝な顔をして、みっともない、大人はこんな大泣きなんかしてはいけない、平気な振りして本音を隠すことができるはずだ、と責めてくるものだから、ますます涙は止まらない。  
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