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現実が楽になったとは言わないが、今の私なら、思い切り地面を蹴れば、飛び越えられそうな気さえしてくる。もし、そのまま底に飛び込んでしまっても、嬉しそうに顔を綻ばせながら、手を握り、一緒に水の中を泳いでくれるだろう。
「ありがとう。まずは、そう言いたい」
「はい、こちらこそ」
「嬉しいと、言ってもいい? 」
「もちろんです」
「……今度は、私が、君を困らせる、かもしれない」
「それならもう、お互い様ですね」
「手が震えてる。やっぱり少し、こわいなあ」
「じゃあ、怖くなくなるまで、手を繋いでいましょう」
「本当に? 」
「そうしたらその後は、思いきり抱き締めてもいいですか? 」
「えっ! 」
「それから飽きるまで、二人で沢山話をしたいです」
「……本当にはっきり言うね」
「好きですから」
「私は、君のように素直過ぎる人間には、なれないかもなあ……」
「それでも、あなたのそういうところも含めて、もっと好きになっていくと思います」
「…………本当に、君って人は……」
もう震えは止まっていた。気さくな会話は、まるで旧知の仲のようで、私は微笑みながら、ゆっくりドアノブを回す。きいっと音を立てながら開いていく先には、夕暮れ色に染まり、同じように頬を緩ませている、あどけなくも凛とした姿があった。
大人らしくない、青いあおい恋。
私は第二の青春の扉を開けた。
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