あおい

7/7
前へ
/7ページ
次へ
現実が楽になったとは言わないが、今の私なら、思い切り地面を蹴れば、飛び越えられそうな気さえしてくる。もし、そのまま底に飛び込んでしまっても、嬉しそうに顔を綻ばせながら、手を握り、一緒に水の中を泳いでくれるだろう。 「ありがとう。まずは、そう言いたい」 「はい、こちらこそ」 「嬉しいと、言ってもいい? 」 「もちろんです」 「……今度は、私が、君を困らせる、かもしれない」 「それならもう、お互い様ですね」 「手が震えてる。やっぱり少し、こわいなあ」 「じゃあ、怖くなくなるまで、手を繋いでいましょう」 「本当に? 」 「そうしたらその後は、思いきり抱き締めてもいいですか? 」 「えっ! 」 「それから飽きるまで、二人で沢山話をしたいです」 「……本当にはっきり言うね」 「好きですから」 「私は、君のように素直過ぎる人間には、なれないかもなあ……」 「それでも、あなたのそういうところも含めて、もっと好きになっていくと思います」 「…………本当に、君って人は……」  もう震えは止まっていた。気さくな会話は、まるで旧知の仲のようで、私は微笑みながら、ゆっくりドアノブを回す。きいっと音を立てながら開いていく先には、夕暮れ色に染まり、同じように頬を緩ませている、あどけなくも凛とした姿があった。  大人らしくない、青いあおい恋。  私は第二の青春の扉を開けた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加