2

1/1

416人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

2

 セーラと出会ったのは、アメリアと結婚した後だった。どう頑張ってもボルグの要望に応えられないアメリアに辟易していたとき、彼女と出会ったのだ。  彼女は娼婦だが、身体の相性も、疲れた自分を気遣い癒やす心遣いも完璧だった。アメリアには作れないはずの、彼好みの料理も作ることができた。  頭も良く、要領もいい。  自分が気付かない部分もフォローしてくれる、ボルグが求める完璧な理想の妻。  ボルグは大金を払ってセーラを身請けすると、自身が住まう屋敷近くの街に住まわせた。  もちろん、生活費は全て自分がもってやっている。  始めはセーラの存在をアメリアに隠していたのだが、バレた今では、堂々と彼女の家に通っている。アメリアは悲しそうにするだけで、ボルグの不貞を責めはしなかった。  万が一、責めることがあれば、一喝して黙らせる自信もあった。 「ああ……今日も疲れたよ、セーラ」 「本当にお疲れ様です、ボルグ様」  手作り料理を食べながら、労って貰うと、一日の疲れが吹き飛んだ。  そして夕食後は、ベッドの上で愛し合う。さすが元娼婦ということもあってか、彼が求めるもの、求めることに、彼女は完璧に応えてくれる。  セーラに満足すればするほど、益々本妻であるアメリアの存在が鬱陶しくなってくる。  そう言えば昨日も、新しいハンカチに入れさせた家紋の刺繍が、曲がっていた。それを侍女に指摘すると、横からアメリアが口を出してきたのだ。 「それは、私が刺繍したものです。申し訳ございません……すぐにやり直しますから……」  いつものように弱々しく謝罪しながら、頭を下げるアメリア。  ろくに刺繍もできないのか、と責め立てた気がするが、どうでもいいので詳しくは覚えていない。  ちなみにセーラに布小物の刺繍をお願いしたら、次会った時には、見事な刺繍が施されていた。 (セーラと出会うのが、もっと早ければ……)  そうすれば、彼女を本妻に迎えたのに。  元々、ボルグは男爵だった。  アメリアと出会ったのもその時で、美しい彼女に惹かれて結婚を申し込んだのが、お互い十八歳の時だ。その後、四年ほどは夫婦仲も悪くはなかったのだが、いつまでも子どもが出来ないことが原因で、ボルグの心は次第に妻から離れていった。  どうせアメリアが原因だろう。   そう思うと、妻に指一本触れる気は起きなくなり、気がつけば、彼が最後にアメリアを求めてから四年が経っていた。  その間に、伯爵だった兄が亡くなり、ボルグが爵位を継いだころには、何をしても不器用な彼女に腹が立って仕方がなかった。  確かセーラに出会ったのは、この頃だった記憶がある。  妻と愛人を比べれば比べるほど、歯痒くて堪らない。  しかし、家の存続を揺るがす程の特別な理由がなければ、離縁は難しい。  どうにかセーラを妻に出来ないものかと悶々とする日々が続く中、そのチャンスは、意外なところからやってきたのだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加