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 不器用な妻がいなくなり、借金もなくなった。  愛人であるセーラを妻として屋敷に迎え、ボルグの生活は完璧になるはずだった。  しかし、 「なんだ、この料理の味は!」  出てきた料理の味が、満足なものではなく、ボルグは料理人を怒鳴りつけた。彼は恐縮しながら、こう言った。 「申し訳ございません……今まで料理の味は、アメリア様が決めていらっしゃったので……」 「……え?」  寝耳に水だった。  話を聞くと、 「旦那様は、味に敏感な方ですから……」 と、アメリアが全ての料理の最終的な味付けをしていたのだという。なので、アメリアがいない今、ボルグの好きな味付けを再現できる者がいなくなったのだ。  味付けだけではない。  ボルグの好みの食感や、肉の硬さなど、全てにおいてアメリアの指示が入っていたのだ。 「以前、料理を褒めてくださった旦那様は、その会話を聞いて笑っていらっしゃったアメリア様に、何を笑っているのかと、お怒りになられましたね? あれは恐らく……アメリア様の味付けを旦那様が喜んでくださったのだと、嬉しかったからではないかと、今になって思うのです」  言葉を失っているボルグに、料理人は被っていた調理帽を取り、胸に手を当てた。  そしてこう言った。 「恐らく……私には、今の旦那様を満足させる味付けは出来ないでしょう。ですので、お暇を頂きたく存じます」
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