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 事前の約束もなくやってきたボルグに、ウィルは丁寧に対応してくれた。  伯爵家とはいいつつも、屋敷は非常にこじんまりとしている。ウィルの素性を知らなければ、伯爵とは思えない、慎ましい暮らしだ。 「独り身である私には、これくらいの屋敷の広さで十分だ。雇っている使用人の数も、少ないしな」  顔を緩ませながら、ウィルが笑った。  冷酷と言われる男が笑う顔を、ボルグは初めて見た。雰囲気も、以前会った時よりも、心なしか穏やかになっているような気がする。  でも今はそんなこと、どうでも良かった。 「妻を……アメリアを、返して頂きたい」 「……申し訳ない。それは無理な相談だ」 「支払って頂いた金は、すぐには無理だが、必ず返す! だ、だから……頼む!」  深く頭を下げるボルグに、ウィルは言いにくそうに口を開いた。 「貴方の妻であったアメリアは……死んだのだ」 「……え? しん、だ?」  言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。  呆然として何も考えられない頭の中で、ウィルの言葉だけが木霊している。  しんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしん――  アメリア ハ シンダ  何度も単語を頭の中で反芻し、ようやく意味を理解した。   「……何故、私に伝えてくださらなかったのですか?」  頭の中は空っぽなのに、勝手に口が動いた。ボルグの言葉に、ウィルは眉をひそめると、低い声で言い返した。 「……もうアメリアとは関係ない貴方に、何故伝える必要がある?」  心に、鋭い言葉の刃が突き刺さった。  ウィルの言葉はもっともだ。自分は彼女を、目の前の男に売ったのだ。  自業自得。  だから、何も言えなかった。死んだ理由さえ、聞けなかった。  ボルグはただ黙って頭を下げると、ふらつく足取りで、屋敷を出て行った。
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