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 アメリアが死んだと告げられたボルグは、その日から食事が喉を通らなくなった。無理に食べても吐いてしまい、身体は日に日に衰弱していった。  色々な医者に診せたが、彼の容態が回復することはなかった。  恐らく、アメリアが死んだという事実が、心身の不調に現れるほどショックだったのだろうと、皆が口を揃えて言った。  時間が経てば、きっと忘れられるだろうと。  しかし、実際は逆だった。  日が経てば経つほど、後悔が募る。自分が行った不貞を思い出すと、激しい怒りに苛まれた。自分勝手な行いをアメリアがどう思って見ていたのだと思うと、心が引き裂かれそうだった。  彼女の愛と支えに気付かずに生きてきた自分を、恥じた。  もう二度と彼女に、愛も感謝も告げられないのだと思うと、何故アメリアが自分を求めてくれたとき、応えなかったのかと激しい後悔が襲った。  そんな時に、流行病が忍び寄る。  本来は、さほど怖くない病気だが、ボルグの心身が衰弱していたため、すぐに症状は悪化した。  意識が朦朧とする中、自分の命が長くないのだと悟る。  身体が熱い。  息も苦しい。  目の前の景色が、揺らいで見える。 (死ねば、アメリアに会えるだろうか?)  それなら、死ぬのも悪くないかもしれない。    もし彼女と死後の世界で出会えたなら、謝ろう。今までの心無い仕打ちを。  そして告げるのだ。  愛していると――  そのとき、 『……さま、旦那様……』  聞こえてきた声に、ボルグはハッと目を見開いた。声をした方に、必死で視線を向ける。  そこには、 「あ、あめ……りあ?」  自分を見下ろす、元妻の姿があった。 (来てくれたのか? 死ぬ間際の私を、迎えに……)  ボルグの瞳に、涙が溢れる。  視界が揺らぐ中、アメリアが口を開いた。 『旦那様……貴方様は私を……愛してくださっていましたか?』  それを聞き、ボルグは微笑んだ。 「ああ……愛して……いる……。今、まで……ほんとうに、すま、ない……」  言えた。  もし死んだ彼女に会えたらなら、伝えたいことが言えて、ボルグは嬉しくて堪らなかった。アメリアに向かって、木の枝のように細くなった腕を伸ばす。 「こんど、は……死後のせかいで、一緒に……なろう」  その手を、アメリアが取った。死者の手とは思えない温もりが、ボルグの手を包み込む。  あまりにも生々しい感覚に、ボルグの心臓が跳ね上がった。てっきり、死ぬ間際に見えている幻だと思っていたからだ。  表情を強張らせているボルグに、アメリアは言った。 「その言葉が聞きたかったのです。ありがとうございます、旦那様。しかし――」  与えられていた温もりが、不意に途切れた。  ボルグの腕が、ベッドの上にポスッと音を立てて落ちる。 「その死後の世界とやらには……貴方お一人で行ってください」   その言葉に、ボルグは目を見開いた。  視界に映るのは、長く見ることのなかった、アメリアの満面の笑み。  それを最後に、彼の意識は二度と浮き上がることのない闇の中へと消えていった。
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