雪代に浸る

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◆◆◆  何も致さないまま、けれど愛おしい人を抱きかかえ浅い眠りの中で迎えた朝は空気が冷たく清々しいものだった。  慣れた手付きで簡単に食事を済ませ、二人で素早く荷物を纏めると、この美しく湖に別れを告げる。  ここは神々に愛された清らかな土地だけに一度に長く居れば居るほど人の本能を刺激し、溜め込んだ感情を顕にさせる。 昔は昼過ぎには山腹にある山小屋まで戻り何日も通って設備機器の維持をしていたこともあると聞いている。 このままもう半日も居れば魔力量の多いアレクでもクリスに無体を強いいてしまいかねない。 朝日に美しく光る水面を見ながら、検体を持ち帰る時にしか触れない水にクリスを浸し、身体を繋げたいと無意識に考えてしまうくらいにはすでに危うい。  アレクがこの研究所とは名ばかりの野性味が必要な部署に馴染むのにそう時間はかからなかった。 そして、馴染んでいくうちに正式にバディとなったクリスといくつもの問題を共に解決するうちに、互いに隣に居ない事の方が違和感を感じる位になり、そこからはじわじわと雪代に浸って行くかのように穏やかにけれど確実に二人は友愛を超えた深い仲になった。 今日は昔、中継地としてつかっていたという昨日の朝に出発したばかりの山腹の山小屋に一泊し、明日の昼過ぎにはみんなが待つキャンプ地となっている宿のある村におりる。 そこからはまた集団生活が始まる。それまでの限られた貴重な一夜だ。 一昨日、事前に手入れをしておいた山小屋につくと、まだ昼前なのに待っていられないとアレクはクリスの細い腰に右手を回し左手で小さな頭を抱きかかえた。
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