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「ま、まぁ所長だしな……」
気持ちを立て直し、取り敢えず、ここに突っ立ていてもどうにもならないと、ボロい扉をノックすると中から返事とも思えない、だが多分返事らしきゆるい声が聞こえた。
変わり者が多い魔術師団にはよくあることだとアレクが扉をあけた先には比較的広めのボロい室内に何も置いてない沢山の無人の机と虫食いのようにポツンポツンと座る数人の職員、さらにその奥にガラスで仕切られた研究施設が目に飛び込んだ。
なるほど、ここまで空席であれば確かに人手が足りないのだろう。仕方ない。魔術騎士団に戻れるまで協力してやってもいいだろう。とアレクが室内に踏み込んだ時だった。
「あ!今、南東から汲んできた検体を持ってるんだ。気をつけて!!」
アレクの視界の下から聞こえた声に思わず、飛びのける。
すると、扉の影から両手で採取瓶を持った人物が現れた。
キュッと結すばれた口元とは対象的に短めに切りそろえられた柔らかそうな栗毛の髪からかわいい耳がぴょこんと飛び出ている少年だった。その耳にかけられた黒縁眼鏡から見える青と緑の混じる不思議な色合いの美しく大きな瞳はその地味で平凡とおもえる顔立ちを愛らしく彩っている。……いや、違う。この眼鏡が目の前の少年の可愛らしい顔立ちを誤魔化しているのだろう。
「あ、魔術騎士団から来た子?出発前で良かったよ〜。……あ、クリス君!ユーナ君の代わりきたよ。この子連れてって!じゃ、明日からクリス君達と一緒に外回りよろしくね」
二人の横からかけられた声にびくりとしてアレクが顔を上げると『室長』と書かれた名札の置かれた机から立ち上がった白い髭が印象的なかなり高齢の魔術師がニコニコと笑っていた。
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